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*****令和2年9月28日(月)第120号*****

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介護給付費分科会で、介護保険サービス利用者が注目すべき「3つの意見」
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◇─[はじめに]─────────

 弊紙発行人の個人的な事情で、9月がかなり多忙になってしまい、日本介護新聞本紙の発行が約1ヶ月ぶりになってしまいました。まずはこの点を、読者の皆様にお詫び申し上げます。この間、来年4月の介護報酬の改定に向け、介護給付費分科会が2回開催されました。

 9月4日と、9月14日に開催された2つの会議で、その要点のいくつかは弊紙ビジネス版でもお伝えしていますが、この本紙ではあくまで介護保険サービスの利用者の立場に立って、ぜひ知っておきたい会議の内容を3点、ピックアップしてお伝えしたいと思います。

 そのうち2点は「認知症の人と家族の会」の発言で、介護保険サービスの利用者側の視点から問題点を訴えています。これからご紹介する3点とも、まだ結論が出ていませんが、今後の介護給付費分科会の議論の行く末を見る上で、非常に重要な指摘だと思われます。

 日本介護新聞発行人

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1、「特例措置の請求数」が「追及」される
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認知症の人と家族の会・緊急提言 本紙第118号(7月24日付)=厚労省の「読み違い」から、見えてきたもの=でもご紹介した内容ですが、認知症の人と家族の会(以下「家族の会」)の鎌田松代理事が、新型コロナウイルス感染症に係る「特例措置」について、厚労省を「追及」しました=家族の会が「特例措置の撤回」を求めてYouTubeにアップした動画。左が鎌田理事で、右が鈴木代表=

 通所系サービスで「提供したサービス提供時間の区分に対応した、報酬区分の2区分上位の基本報酬を算定可能」と、厚労省が都道府県に通達した件で、9月4日に開催された会議で、鎌田委員が「実際の請求数はどのくらいあるのか?」と、厚労省に尋ねました。

 これに対し厚労省の担当官は「現時点での請求数は、資料がない(=わからない)」等と述べ、明確な回答を避けました。通常は、会議の時間が制限されているため、この時点でこの話題は「終わり」になる見込みでした。

 ところがこれに対し、介護給付費分科会の分科会長(司会)を務める田中滋・埼玉県立大学理事長が、厚労省の担当官に対して「(請求数を示すことを)今後、検討して下さい」と注文を付けました。

 これまで、弊紙は約6年に渡って介護給付費分科会を傍聴してきましたが、いずれも司会役は田中分科会長でした。過去にもあった同様の質疑応答のケースに当てはめると、このやり取りは次の2点で「異例」でした。

 1=会議の委員からの質問に、厚労省が「資料がない」と答える場合は、その後に必ず「調査して後日、結果をご報告したいと思います」と付け加えるが、今回の鎌田委員からの質問に対しては「後日……」の部分を、敢えて発言しなかった。

 2=司会役の田中分科会長が、厚労省の回答に対して「それでは不十分」との趣旨を含んで、表現は柔らかながら実質的に「調査して、後日に回答して下さい」と、厚労省に促した。

 この「2」からも、田中分科会長が鎌田委員の指摘を重要視したことがわかります。このやり取りを聞いていて、弊紙は「さすが長年、分科会長を務めた貫禄だ」と感服しました。これにより、厚労省は「後日の回答」が避けられなくなりました。

 やはりこの問題は、厚労省には「都合が悪い」結果しか出てこないと思いますが、今後の介護報酬のあり方を議論するためにも、非常に重要な点だと思われますので、ぜひ早急に請求数を正確に回答してもらいたいと思います。

 ご参考までに、鎌田委員と厚労省、また田中分科会長の実際のやり取りは、次のような内容でした。

 ▼松田=デイとショートでの「特例措置」での請求は現在、どのくらいの数になっているのか?(厚労省から通知が出た)6月以降、2ヶ月経った現在(9月4日)でも混乱は続き(特例措置の)制度のことは(マスコミに)報道されている。

 ▼報道されればされるほど、その不公平さ、理不尽さは浮き彫りになっている。デイやショートは在宅介護の要で、事業所の存在は私たちにとっても重要だ。この事業所が存続をしていくためにもぜひ(介護報酬ではなく)国の予算でお願いをしたい。

 ▽事務局(厚労省)=請求の数は、資料を持ち合わせていない。

 ◆田中分科会長=今後、検討して下さい。

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2、「要介護になっても総合事業」の省令改正に「反対」を表明
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 これも、家族の会の鎌田委員が9月14日に開催された会議で、当日の会議の議題とは直接的には関係のない話題でしたが、敢えて「意見」として発言しました。弊紙も、鎌田委員がこの問題を会議で取り上げるまで、全くその「事実」を知りませんでした。

 鎌田委員は、「要支援者が要介護者となっても、本人の希望を踏まえて地域とのつながりを継続することを可能とする観点から、市町村が認めた場合には、要介護者であっても、市町村が実施する総合事業を受けられることとする」との省令改正を取り上げました。

 これは「省令改正に対するパブリックコメント(意見募集)をWEB・郵送・FAXで、9月23日を締め切りに受け付けている」という内容です。一般の方々には、この「省令改正」や「パブリックコメント」という言葉に馴染みがないと思います。

 通常、法律の改正には国会(衆議院・参議院)での議決が必要です。例えば「介護保険法の改正」がこれに当たります。この介護保険法に則って、さらに詳細な実施内容を定めたものの一つが「省令」で、これを改正することを「省令改正」と言います。

 法律の改正には国会の議決が必要ですが「省令改正」の場合は、国会での議決は要りません。その代わり「省令改正の内容を、広く国民に周知して、それに対する意見を募って、それを踏まえて改正する」という手順を踏みます。

 この「国民に意見を募る」ことが「パブリックコメント」に当たります。鎌田委員は、この「省令改正」に対して、この9月14日の会議で明確に「反対」を表明しました。今回の「省令改正のパブリックコメント」は9月23日が締め切りです。

 通常は2週間から1ヶ月後に、それに寄せられた全ての意見と、それに対する厚労省の所見が公表され、最終的に省令改正をどのように実施するのかが報告されます。弊紙では、この「パブリックコメント」にどれだけの「反対意見」が寄せられたかに、注目しています。

 【9月14日の介護給付費分科会での、鎌田理事の発言要旨】

 ▽「在宅介護の限界点」を上げていくためには、在宅サービスの充実を図ることが必須条件だ。訪問介護・通所介護・ショートステイ等、基本的なサービスを安定的に供給することと、そのために介護スタッフを増やすことも重要だ。

 ▼しかし厚労省は、要介護認定になっても、訪問介護と通所介護の個別給付をすることなく「(市町村が実施する)総合事業にとどめておく」という省令改正を予定し現在、パブリックコメントを募集中だ。

 ▼私たち(家族の会)は、本当に驚いた。総合事業は、要支援を受けた人が対象で、提供されているのは訪問型サービスと通所型サービスだ。市町村の事業なので(サービス利用者が)事業所を選ぶことができない。

 ▽しかも「(利用者が希望する)必要なサービス回数を求めることが難しい」との声が、家族の会に届いている。新型コロナの流行では代替サービスがなく、休業している事業所もある、と聞いている。

 ▼残念なことに総合事業の(厚労省の)調査は今年度に実施され、全国的な状況がわかるのは「来年」と伺っている。省令改正では、要介護認定の人が、総合事業を利用するのは「利用者が希望した場合」「市町村が判断した場合」と(パブコメで)述べている。

 ▽しかし、ひとたび市町村の判断で「個別給付をしなくても良い」「市町村が運営する総合事業で良い」となれば「在宅介護の限界点」に、アッという間に到達してしまう危険性が高いと、私たちは感じている。

 ▼また省令改正で、介護認定を受けても「個別給付をしなくても良い」というのは、介護保険の根幹にかかわることではないだろうか。家族の会は、この省令改正に反対であることを、この(介護給付費分科会の)場で申し上げたい。

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3、要介護度が低下した場合に「移行期間を設ける」ことを提案
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 さらに9月14日に開催された会議では「要介護度が低下した場合に、移行期間を設ける」ことが提案されました。これは、全国知事会の代表参加者(=黒岩祐治・神奈川県知事、当日は神奈川県幹部が「参考人」として代理出席)が発言し、提案しました。

 当日の会議の議題は「自立支援・重度化防止の推進」で、これを各種のリハビリテーションや機能訓練等で取り組む際に「要介護者のADL等の維持改善を進める観点から、どのような方策が考えられるか」との論点が提示されました。

 これに対し参考人が「要介護度の低下」の観点から提案しました。そもそも各都道府県では、要介護認定が出た後、介護サービス利用者はその結果に対して「不服の申し立て」ができます。

 しかも、参考人によれば「更新認定の不服の大半が『介護度が軽くなった』ことに対するもの」だそうです。参考人はこの主な理由を「これまで受けてきたサービスの、利用継続ができなくなるため」と分析しました。

 これを踏まえ、その対策として「移行期間を設けて、徐々に移行していく」ことを提案しました。

 【9月14日の介護給付費分科会での、神奈川県幹部(参考人)の発言要旨】

 ▼本来、状態が改善することは利用者にとって良いことであるはずだが、利用者やその家族からは、必ずしも歓迎されていないという現状がある。容体が改善することは、本人にとっても社会にとっても「良いこと・価値のあること」と意識を変えていくことが必要だ。

 ▼利用者や家族が、要介護度が下がることを歓迎しない理由の一つとして「これまで受けていたサービスが、急に受けられなくなること」への不安があると思う。そこで更新から一定期間は「これまで通りのサービス利用を可能」とする。

 ▼これと併行して徐々に「下がった要介護度に見合ったサービス」に移行を目指す。例えば「移行期間」のようなものを設けて、徐々に移行していけるしくみを設けてはどうか。その際は介護保険サービスのみならず、一般介護予防事業を含めたケアプランを検討する。

 ▼また移行期間終了後も、さらに一定期間、状態を維持した場合は、利用者に一定のインセンティブを与えるとともに、ケアマネジャーや事業所に対しても、円滑な移行を支援したことを、報酬上で評価していくことも一つの方策ではないか。

◇─[おわりに]─────────

 弊紙が介護業界の取材を始めて、今度が3回目の介護報酬改定になりますが、今回の改定が最も「議論が白熱している」と受け止めています。そもそも介護報酬の改定は「点数付け」の議論のため「プラスか・マイナスか」が論点の中心になります。

 今回、弊紙が取り上げた上記の3点の話題は、本来の「点数付け」とは直接的には関係ありませんが「利用者目線」からの指摘は「議論の場に、一石を投じる」役目を果たしているような気がします。

 現時点では、3点とも結果(結論)は出ていませんが、今後の会議の場で何らかの形で「報告」されると思います。今後、弊紙でもこの点をお伝えするとともに、同様に「利用者目線」で提案された意見を、この本紙で積極的にご紹介していきたいと思います。

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