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*****令和2年6月29日(月)第116号*****

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豊島区・選択的介護は、介護サービスの「新たな選択肢」となるのか?
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◇─[はじめに]─────────

 弊紙・ビジネス版第288号(6月19日付け)で「東京都・豊島区『選択的介護』特区申請まで踏み込まない見込み」を配信しました。「選択的介護」は、国家戦略特区を活用した、いわゆる「混合介護」には到達する可能性が低くなりました。

豊島区混合介護第5回会合 今から3年前、2017年(平成29年)6月に豊島区が事務局となり「有識者会議」=写真は平成30年5月に開催された第5回会合=を立ち上げた際は、一般マスコミから「混合介護」の実現が期待される趣旨の報道が相次ぎましたが、これとは異なる形で来年3月に「選択的介護モデル事業」が終了する見込みです。

 結果的に「選択的介護」は、現行の介護保険制度の枠内で、介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせたサービスを、ケアマネジャーと行政(豊島区)が関与した形で、介護事業者が利用者に提供するという「新たな事業モデル」を示したことになります。

 来年4月から東京都は豊島区以外に、この「新たな事業モデル」を都内で実施すべく、周知活動に注力することになります。この「選択的介護」の最初の利用者があったのが2018年(平成30年)8月で、それから現在まで2年弱で利用者(契約者)は38人。

 この「選択的介護」は、介護サービスの「新たな選択肢」となるのか──6月10日に開催された「有識者介護」の第10回会合で示された資料で、効果検証のために実施された3者(事業者・ケアマネ・利用者)へのアンケート調査から考察してみたいと思います。

 日本介護新聞発行人

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2年弱でサービス利用者は38人
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 「選択的介護」には、「平成30年度」と「令和元年度」の2つのモデル事業がありますが、「令和元年度モデル事業」は利用者が7人で、いずれも今年1月から3月の間に利用を開始したばかりのため、今回の記事では「平成30年度モデル」の調査に着目しました。

 「平成30年度」は、最初の利用者があったのが2018年(平成30年)8月で、それから現在まで2年弱で利用者(契約者)は38人で、サービス利用の延べ件数は45件。11事業者が参加しており、そのうち現在までサービスを提供している事業者は8者。

 サービス区分ごとの内訳は、居宅内のサービス26件、居宅外のサービス9件、見守り等のサービス10件となっています。当初、一般マスコミの報道により「鳴り物入り」で始まった経緯から考えれば、数字的には「寂しい結果」と言えるでしょう。

 では、内容的にはどのように評価されているのか? 「選択的介護・平成30年度モデル事業」を提供した介護事業者、ケアプランを作成したケアマネジャー、実際のサービス利用者の3者の「声」を、アンケートの調査結果の分析から読み解いてみたいと思います。

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事業者向けアンケート調査結果=「好影響があった」が63%
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 【対象者】豊島区内の「選択的介護」提供事業者
 【回収数】10件(対象事業者数11者)
 【実施方法】アンケート郵送調査

 主な回答は、次の通り。この中でケアマネに関係する項目は「▼」で表示した。

 ▼選択的介護の利用者への提案件数に対して、利用に至らなかった割合は約6割となっている。理由としては「利用者に有益なサービスと感じてもらえなかった」「担当ケアマネジャーの理解が得られなかった」などが主な回答内容であった。

 ▽「選択的介護」のサービスの提供にあたって、負担に感じていることは「利用者へのサービス内容の説明で、保険外サービスとの違い等」「サービス提供計画の作成・同意」。

 ▽事業者として、必要だと思う行政からの支援内容としては「区民に向けた広報・周知」「人材確保や人材育成に係る支援の充実」が多い。

 ▼「選択的介護」実施にあたっての課題としては、7割の事業者が「ケアマネジャーの選択的介護への理解不足」「利用対象者の制限=要支援者・生活保護受給者が使用できない」と回答している。

 ▼事業者の回答のうち、約半数のケアマネジャーが「選択的介護」以外の保険外サービスの利用者がいる、と回答している。

 ▽事業者の回答者の41%が「選択的介護」を利用者に提案した経験があり、うち31%は「選択的介護」の利用者を担当している。「選択的介護」利用者の担当数は1~5名と、事業者間でばらつきがある。

 ▽介護保険利用者のうち「選択的介護」を利用しそうな人が「1人もいない」という回答は、前回アンケート時から大きく減少している。57%から39%と18ポイント減少した。

 ▽一方で「選択的介護を利用しそうな人が2割未満いる」という回答は、前回アンケートから12ポイント増の29%となっている。

 ▽「選択的介護」の、今後のケアプランへの盛り込み意向について「積極的に盛り込みたい」という事業者の回答は、前回アンケート時の6%から8%の微増となった。

 ▽「盛り込みには慎重」という回答は、前回アンケート時の37%から27%と10ポイント減少した。また「これらの回答に関する1年前と比較した意識の変化」について「変化があった」と回答した事業者の多くが「研修をきっかけに意識が変わった」と回答している。

 ▽「選択的介護」をケアプランに積極的に盛り込まない理由は「10割負担のため、提案しにくい」という回答が多い。

 ▽選択的介護を利用することによる利用者への影響について「少し好影響がある」「好影響がある」という回答は、前回アンケート時より30ポイント増の63%となっており、影響がある項目としては「QOL」「生活の幅」「精神面」の回答が多い。

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ケアマネ向けアンケート調査結果=肯定的に「意識が変化した」
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 【対象者】令和2年2月現在、豊島区内の居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャー
 【回収数】173件(対象者数239名)
 【実施方法】アンケート郵送調査

 ▽「選択的介護」を実施したことで、ケアマネにとってのメリットは、利用者QOLの向上・自立度向上・家族の不安軽減・利用者の理解につながり、事業者連携やケアマネジメントの向上に繋がった等の意見が見られた。

 ▽一方で、デメリットとしては、事業者との調整等の負担がかかるという意見が見られた。

 ▽「選択的介護」をより浸透させていくために、ケアマネが豊島区に期待する取組は「料金やサービス内容の見直し」(61%)「提供事業所の拡大」(51%)という回答が多い。

 ▼「選択的介護」のケアプランへの位置付けや、その検討を行うことを通じての意識の変化については、肯定的な回答(「非常に思う」「やや思う」)が多く見られた。その割合は、前回アンケート時と比較して1~2割程度増加している。

 ■「肯定的な回答」が見られたアンケート項目

 ・保険外サービスを、検討し位置づけることの有用性を再認識した。
 ・ケアプラン作成と見直しを、より多様な視点で情報を分析し、検討するようになった。
 ・より多様なサービスについて、検討する必要性を感じるようになった。
 ・アセスメントやモニタリングの、視野が広がった。
 ・多職種連携の重要性を、これまで以上に感じるようになった。

 ▽「選択的介護」を利用して、利用者やそのご家族、その他の関係者の変化として「利用者の在宅生活の継続に寄与している」(59%)との回答が最も多い。

 ▽豊島区が継続的に実施している「選択的介護実務者研修」に「参加したことがある」は68%、「参加したことがない」は27%だった。

 【事務局コメント】研修に参加したことがない方と比べて、研修への参加経験のあるケアマネは「選択的介護」の利用者像がイメージできている傾向があり、ケアプランに「選択的介護」を盛り込む意向も高いことが確認された。

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利用者向けアンケート調査結果=全員が「満足している」
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 【対象者】「選択的介護」利用者で令和2年2月現在、6ヶ月以上継続してサービスを利用している方。本人への聞き取りが困難な場合は家族等を対象とする。
 【回収数】9件=本人5名・家族等4名
 【実施方法】ケアマネが利用者宅で聞き取りを行い、調査票に記入する訪問調査

 ▼「選択的介護」を知ったきっかけは、大半(9名中8名)が「ケアマから聞いた」と回答しており「選択的介護」を利用者や家族に周知する上で、ケアマネが重要なチャネルとなっていることが確認された。

 ▼「選択的介護」に対する満足度は、全員が「満足している」と回答している。「大変満足している」が3人「満足している」が6人。

 ▼「選択的介護」の利用が、利用者や家族に良い影響を与えているとの意見が多くみられ、「自宅で暮らし続ける自信がついた」等、在宅生活の継続につながるような意見も見られた。

 ■利用者の声

 ・ヘルパーさんと話すことで寂しさが払拭され、楽しい時間を過ごすことができました。
 ・「融通の利く」仕組みなので、ありがたいと思います。
 ・自分ではとてもできない、窓ガラスの掃除をしてもらえています。慣れているヘルパーさんが来てくれるので、安心してお願いすることができています。
 ・「選択的介護」を利用して、これからも自宅で暮らし続ける自信がつきました。

 ■家族の声

 ・いつも来てくれているヘルパーさんなので、安心してお任せできました。
 ・本人にとって「見守り」があることの安心感が、精神的な安定につながっているようです。
 ・ヘルパーさんとのコミュニケーションをとることを、楽しんでいる印象もあります。
 ・カメラで生活の状況を確認できるので、仕事中でも安心できます。

 【事務局コメント】好意的な意見がある一方で「サービスの使い方がなかなか理解できない」「介護保険サービスとの区別が分からない」という意見も一部存在しており、サービスや費用について、より分かりやすく説明することも課題と考えられる。

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豊島区の分析=利用者の在宅生活の継続へ、寄与できる可能性も
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 豊島区では、3者(事業者・ケアマネ・利用者)へのアンケート結果から「効果(=▽印)課題(=▼印)」として、以下の事項を挙げています。

 ▽区内のケアマネにおいて「選択的介護が有効な利用者像」等のイメージが浸透してきている。

 ▽「選択的介護」が、利用者の健康状態や自立支援、精神面等に与える影響について、多くのケアマネが肯定的に捉えている。

 ▽「選択的介護」について、検討を行うことがケアマネジャー自身の意識変化にもつながっており、区が継続的に実施している「選択的介護実務者研修」もその一助となっていると考えられる。

 ▽利用者の満足度は高く「選択的介護」が利用者の在宅生活の継続へ寄与できる可能性も示されている。

 ▼事業者やケアマネが「選択的介護」の利用について、提案を行っても利用に至らないケースも多い。

 ▼事業者・ケアマネのいずれも「事務や調整に係る負担がある」という回答は多い。

 ▼一層の利用拡大に向けては、提供事業所の拡大、事業者・ケアマネ・利用者それぞれへの、さらなる理解促進が必要と考えられる。

◇─[おわりに]─────────

 冒頭で「数字的には『寂しい結果』と言えるでしょう」と書きましたが、少数ながらも利用者はほぼ、全員が「選択的介護」の利用に満足しています。ケアマネや介護事業者の評価も高く、その意味では「内容的には成功」と言えるでしょう。

 後は、利用者側からみれば「選択的介護」が、通常の「保険外サービス」と比較して何が「メリット」なのかが、評価の大きな基準になると思われます。東京都は来年4月以降、豊島区以外の都内の市区町村に「選択的介護」の周知・PRを行う予定です。

 豊島区という限られた地域内では「内容的には成功」かも知れませんが、多くの介護サービス利用者にとって「選択的介護」が「新たな選択肢」となるのか否かは、来年4月以降に結論が出ることになりそうです。

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