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*****令和3年11月28日(日)第139号*****

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「第5波」の教訓・厚労省専門家「今後は、人流の抑制政策には慎重になるべきだが…」
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◇─[はじめに]─────────

 新型コロナの新規感染者数が全国的に抑えられ、これで感染拡大が「終息」したかのような雰囲気が漂っています。しかし、今回のように「第5波がなぜ収まったのか?」その「原因」は、感染症の専門家からは「いまだに、わからない」との声が聞こえてきます。

 特に、東京都で感染が収まった「原因」について、11月9日に開催された「コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」(=厚労省専門家会議)に参加した仲田泰祐・東京大学大学院准教授らのグループ(以下「仲田グループ」)が、分析結果を公表しました。

 弊紙ビジネス版11月15日号では、この分析結果の中で「ウイルスの120日周期」説に着目し、記事として取り上げました。しかし本来は、ここで述べられた他の説も含め全て「検討中」であり、結論を得たわけではありません。

 結果的に「原因は不明」のままなのですが、仲田グループの分析結果を最初から読んでみると「第5波」がはじまった当初に、一部の専門家が主張していたことと実際とは、何が違っていたのか等を、ていねいに分析しています。

 私たちは感染症の専門家ではありませんが、それでも専門家の主張や指摘で「正しかったこと」と「間違っていたこと」を知ることで今後、到来が予想される「第6波」に備え、自らの感染防止対策を考える際に何らかの参考になるのでは、と弊紙では考えました。

 そこで今回の本紙では、ビジネス版11月15日号で取り上げた「ウイルスの120日周期」説も含め、仲田グループの分析結果の概要をお伝えしたいと思います。

 日本介護新聞発行人

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「第5波」が始まった当初、専門家は「ロックダウンをしないと感染は減少しない」と…
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 東京都では、7月後半から急速に感染が拡大して「第5波」が始まりました。この時、一部の専門家からは次ような指摘が出ていました。

 「諸外国のように、ロックダウン(都市封鎖)をしないと感染は減少しない」

 「昼夜問わず、東京の人流を(緊急事態宣言前と比べて)5割削減すべき」

 これらの指摘を受けその後、様々な研究者や研究機関が東京都内の人流を調べましたが、いずれの調査結果でも、都内の人流は減少するどころか「増加」または「下げ止まり」の傾向を示しました。

 それにも関わらず東京都内の新規感染者数は、8月後半から「急速に減少」しました。

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「人流抑制」と「ワクチン効果」以外に、感染者減少の要因として考えられる3点
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 都内の人流が「増加」か「下げ止まり」であるにも関わらず、感染が「急速に減少」したことに対し、仲田グループは考察を重ねた結果「ワクチン接種の効果」に注目し、次の点を問題解決の「重要ポイント」として掲げました。

 ■重要ポイント=ワクチン接種の普及は、7月後半から継続的に、感染抑制に大きな力を発揮してきた。しかしワクチン接種だけでは、8月後半からの感染減少の「タイミング」と「急速さ」を説明しにくい。

 さらに仲田グループは、この「タイミング」と「急速さ」を裏付けることができる「3つの考え方」を示しました。これにより「この『3つの考え方』で、ある程度の説明ができるが、必ずしもこれらが『重要』とはいえないことに留意が必要」と付け加えました。

 また、一部の専門家等が唱えた「天候の影響によるもの」「想定よりも、ワクチンの感染予防効果が高かった」等の説については、仲田グループは「感染減少の要因としては、それほど『重要』ではなさそうだ」と指摘しました。

 【感染者数が減少した「タイミング」と「急速さ」が説明できる、3つの「考え方」】

 ■1.様々な理由によって、ウイルスの基本再生産数(=感染者ひとりが何人に感染させるか)が、当初の想定よりも低かった。

 ■2.「医療ひっ迫」が叫ばれたことで(人流データでは捉えきれない)人々にリスク回避の行動があった。

 ■3.(様々な理由による)ウイルスの「120日周期」説の存在。

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3つの考え方=1.基本再生産数が、想定よりも低かった可能性がある
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 新型コロナの変異株「インド型」が海外で流行している状況を受け、日本国内でも感染症の専門家が「インド型は、これまでの変異株と比べて感染力が強く、ワクチンも効きにくくなる可能性がある」等と、感染拡大に警鐘を鳴らしていました。

 この「インド型」の感染力は、当初「従来株の1.5倍」と予測されていました。そこで「インド型」の感染力の違いにより、どれだけの感染者が出たのかを、従来株と比較した際の「強さ」ごとに、その後の感染者数の推移を試算し、次のような結果となりました。

 ▽感染力が従来株の1.2倍=9月第1週から、感染者数が「ゆるやかに減少」する。
 ▽感染力が従来株の1.3倍=9月第1週から、感染者数が「少しずつ減少」する。
 ▽感染力が従来株の1.4倍=9月第1週から、感染者数は「横ばい」で推移する。
 ▼感染力が従来株の1.5倍=当初の想定=9月第1週以降も、感染者数は従前と同様に「増加」を続ける。

 これらの試算に対し現実には、8月後半から感染者数は「急速に減少」しました。つまり仲田グループは「インド型」の感染力は、従来株の「1.2倍よりも低かった」可能性が高いことを指摘しています。

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3つの考え方=2.「医療ひっ迫」が叫ばれたことで、人々にリスク回避の行動があった
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 仲田グループは、カラオケや飲み会などの行動を実際に行った「ユーザー」のツイートを、NTTデータから提供されたTwitterデータを用いて、東京大学生産技術研究所・豊田研究室で分析し、リスクの回避行動が感染者数にどのように影響したのかを推計しました。

 「当初の見通し」として考えられていた人々のリスク回避行動では、感染者数は「増加を続ける」と予測していました。そして実際にツイートを分析し「飲み会」と「カラオケ」の実施による、感染者数の推移では、次のような推計結果になりました。

 ▽「飲み会」の実施=「当初の見通し」よりは若干低いものの、分析した結果では感染者数は「増加を続ける」
 ▽「カラオケ」の実施=「当初の見通し」では感染者数は「増加を続ける」だったが、分析した結果は「ほぼ横ばい」

 これらの推計に対し、現実には「飲み会」と「カラオケ」の実施の実績に関わらず、8月後半から感染者数は「急速に減少」した。

 つまり仲田グループでは、世間で「医療ひっ迫」が叫ばれたこと等が影響して、人々が実際に「飲み会」や「カラオケ」に行く時、または実施した際に「様々なリスク回避の行動を取った」可能性が高いことを指摘しています。

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3つの考え方=3.ウイルスの「120日周期」説
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 ウイルスの「120日周期」説とは、ウイルス学や感染症の専門家の間で議論されている説です。「ウイルスの流行・変異には『自然の周期』があり、人間の行動とは関係なしに、増加したり減少したりする」という考え方に基づくものです。

 そもそも仲田准教授は、経済学の専門家であり「例えば季節性のインフルエンザは、人流抑制とは全く関係なしに、毎年冬に訪れることを考えると、ウイルス学の専門家ではない私たちには、十分に検討に値する仮説だ」等と指摘しています。

 東京都では、専門家が新型コロナの感染拡大の対策を議論する際に、これまでに起きた「波」を、おおよそ次のように定義しています。

 ▽第1波=令和2年4月に、新規陽性者数の7日間平均がピークを迎えた時の「波」
 ▽第2波=令和2年8月に、新規陽性者数の7日間平均がピークを迎えた時の「波」
 ▼第3波=令和3年1月に、新規陽性者数の7日間平均がピークを迎えた時の「波」
 ▼第4波=令和3年5月に、新規陽性者数の7日間平均がピークを迎えた時の「波」
 ▼第5波=令和3年8月に、新規陽性者数の7日間平均がピークを迎えた時の「波」

 この感染状況を「120日周期」説に当てはめると、次のようになります。

 前回の冬(12月~1月頃)に感染が拡大(=第3波)し、4ヶ月後の4月頃から変異株のアルファ株(=英国型)がまん延した(=第4波)。さらに、その4ヶ月後の8月頃に変異株のデルタ株(=インド型)がまん延した(=第5波)。

 これを裏付けるように、都内では8月中旬には連日、1日当たりの新規感染者数が5千人を超えていました。今後、さらに「約120日周期が繰り返される」と仮定すると、今年の年末の12月頃に「再び感染が拡大する」と予測することができます。

 この点について仲田准教授は「逆に、デルタ株(=インド型)よりも、感染力が強い変異株が出てこない限り、感染拡大は『もう起こらない』と考えることもできるが、一方で人々の自主的なリスク回避の行動が、大きな意味を持つことにもなる」

 「つまり、リスク回避の行動が(あまり取られない等の要因が)内生的に発生するのであれば、再び波(=第6波)が来る可能性もある」等と指摘し、さらに「この仮説が正しいのなら、感染症対策と社会経済活動の両立という視点から政策を見直すことも必要だ」

 「また私たちの分析結果は、今後も出てくるであろう様々な分析結果の1つとして受け止めて頂きたい。私たちも当然、この分析結果が最終地点と考えているわけではなく今後も分析を続ける。何か疑問点等があれば、遠慮なくご指摘頂きたい」等と述べています。

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教訓=今後は、今まで以上にロックダウン・人流抑制政策には「慎重になるべき」だが…
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第5波の教訓・仲田グループ これらの分析結果を踏まえ、仲田グループでは「追加的な人流抑制策(例えば『人流を5割減らす』等)を取らなくても、感染が急速に減少することもある」と指摘し、今回の「第5波の収束」から、次の2点を「教訓」として挙げています=画像・厚労省HPより

 ■1.今後は、今まで以上にロックダウン・人流抑制政策には「慎重になるべき」と言える。

 ■2.ただし、これらの対策を「政策オプションから完全に排除すべき」とは、必ずしも言えない。 

 この中で「1」を挙げた理由として、仲田グループは「今回の分析結果から、行動制限政策の効果の不確実性が、上昇したと言える。こうした政策には、多大なコスト(社会・経済・文化・教育への負の影響)があるからだ」と述べています。

 また「2」の理由では「追加的な人流抑制政策が無くても、感染は減少することがある」ことと「人流抑制が、感染減少には常に役に立たない」ことは「同じではない」と指摘しています。

 さらに「人流抑制政策が感染減少に効果的と考えられ、その『負の影響』を緩和できる策が取れるならば、検討すればよい。ただし、その際は説得力のあるエビデンス(効果を証明するもの)を提示することが望ましい」と結論づけています。

◇─[おわりに]─────────

 仲田准教授は、今回の分析結果を踏まえて今後、年末から年始にかけて予想される「第6波」が、到来するか否かについて「『新たな変異株の、感染力の強さ』に大きく影響されそうだ」等と述べています。

 ここ数日、一般マスコミは南アフリカで発見された新たな変異株「オミクロン株」が、これまでの「インド型」等と同様に「懸念される変異株」として世界保健機関(WHO)から指定され、日本を含めて世界各国が「水際対策」に乗り出したことを報じています。

 「120日周期」説に当てはめれば、わが国で「第6波」が到来するのは年末の12月頃になります。「オミクロン株」が登場した今、これからの年末から年始にかけて、高齢者と接する機会のある家族や介護従事者は、今後「最大限の警戒」が必要になります。

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