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*****令和3年5月30日(日)第132号*****
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連載「総合的な高齢者対策が医療の喫緊の課題、将来へ禍根を残してはならない」(下)
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◇─[はじめに]─────────
今回の連載で、昨日配信した(上)では、日本慢性期医療協会(日慢協・武久洋三会長)が4月8日の定例記者会見で述べた内容をお伝えしました。この中で武久会長は、医学部を卒業した医学生の、卒後の研修制度の「問題点」を指摘しました。
そして「問題点」を解決するため、卒後の「後期研修」のうち「はじめの2年間を、総合診療機能を習得するための研修期間とするべき」と提言しました。ただ、医師の研修制度は厚労省だけなく、文科省も関係してくる話しになります。
そこで日慢協は4月12日、武久会長名で「要望書」を作成して、厚労省や文科省など医師の研修制度に関係する全ての機関・組織に宛ててこれを提出し、卒後研修の制度改革の早期実現に動き出しています。
さらに武久会長は、5月20日に開催された定例会見では「高齢者に薬剤副作用が多発する理由」と題して、ポリファーマシー(多くの薬を服用することにより、副作用なとの有害事象を起こすこと)の問題を取り上げました。
これを解決するための一つの課題として「小児用薬剤はあるが、高齢者用薬剤は無い」ことを指摘しました。弊紙では、武久会長のこの指摘に着目し、その意図を深く知りたいと考え、この点に関する武久会長の認識について、質疑応答で質問しました。
今回配信した(下)では、日慢協が4月12日に関係機関に提出した「要望書」の内容と、5月20日の記者会見での、弊紙と武久会長の質疑応答の内容についてご紹介いたします。読者の皆さんにはぜひ「高齢者医療のあるべき姿」を、想像して頂きたいと思います。
日本介護新聞発行人
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【昨日(5月29日)発行の「上」から続く】
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「世界諸外国では、総医師数の20%から50%くらいが総合診療医」
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■4月12日に、日慢協が武久会長名で関係機関に宛てて提出した「要望書」の内容
現在、わが国の入院患者の大半を占めるのは65歳以上の高齢者であり、急性期病院でも75%以上が高齢患者です。高齢患者のほとんどが多くの臓器に病変を抱えている状態であり、これらの患者を診るのに最もふさわしいのは総合診療医です。
世界諸外国では、総医師数の20%から50%くらいがGP、すなわちGeneral Practitioner、またはGeneral Practiceというような総合診療医(家庭医)がおり、臓器別専門医とのバランスがとれていますが、日本では総合診療医が圧倒的に少ない状況です。
すなわち、医師の卒後臨床研修制度の抜本的見直しが必要ではないでしょうか。そこで医師の卒後臨床研修制度の抜本的見直しに関する下記の要望事項を、提出させていただきます。何卒ご配慮くださいますよう、お願い申し上げます。
◆1.医師の卒後臨床研修制度を、抜本的に変えていただけないでしょうか。
◆2.多臓器に病変のある高齢者が爆増しています。これらの患者を診るのにふさわしい総合診療機能は、全医師が習得しておかなければならない機能であると考えています。
◆3.医師の卒後臨床研修制度は、いわゆる「前期研修」「後期研修」と呼ばれていますが「後期研修」のうち、はじめの2年間を、総合診療機能を習得するための研修期間としていただけないでしょうか。
◆4.新専門医制度の基本領域の科目から「総合診療」を外していただけないでしょうか。そうすることで、結果として「後期研修」の初めの2年間の、総合診療機能習得のための研修を終えて、初めて臓器別専門医としての研修をはじめてはいかがでしょうか。
◆5.総合診療機能を習得するためには、地域の多機能な病院において研修することが望ましいと考えます。
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「医療はサービス産業なのに、患者の8割近くを占める高齢者のニーズにあっていない」
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■5月20日の日慢協定例記者会見における、弊紙と武久会長の質疑応答の内容
▽弊紙=今日(5月20日)の会見で、武久会長=写真=は「小児用薬剤はあるが、高齢者用薬剤は無い」と指摘されたが、先月の会見(=医学生の卒後研修の問題点)では「総合的な高齢者対策が、医療の喫緊の課題」と指摘された。
▽薬剤の世界も含めて今後、医療に関係する全ての分野が、武久会長が指摘されているように「総合的な高齢者対策」が必要と思われるが、この点についてあらためて、会長の認識をお聞かせ頂きたい。
【「高齢者の生理・病理がわかる先生が診ないと、高齢者は『えらい目』に遭う」】
▼武久会長=医療は一応、サービス産業の中に入っているが、サービス産業というくくりの中では「利用される方のニーズに合わせて、色々なサービスを提供すること」がサービス産業の鉄則というか、普通の考え方だ。
▼お客さんが求めていることと違うことを提供することは、普通のサービス産業ではあり得ない。しかも医療に関しては、急性期病院や大学病院でも高齢者の患者がどんどん増えて、今では約8割に達している。
▼多くの利用者の方に便宜を図って、適切な医療・介護サービスを提供するのは当たり前の話しだ。しかし現実には(医療は)心臓なら心臓、脳なら脳、胃腸なら胃腸というように「臓器別専門医を毎年、9千人増やそう」という制度になっている。
▼現実に患者さんは、大学病院とか大きな病院に行けば「治してくれるだろう」と考えるが実際は、高齢者に対して特別な教育を受けていないような先生方が、心臓なら心臓、脳なら脳と、それぞれの専門分野別に診ている。
▼ここで、いろんな臓器の病が3つも4つも重なっている人は、1つの臓器の治療ばかりにかかっていると、次は他の臓器の状態が悪くなっていく。これは常識的にわかることだ。(この対策として)そういうこと(=総合診療)が、残念ながら評価されていない。
▼これは「大学の医局に、医師が来ない」ということもあり、これまでは臓器別専門医制度を取ってきたが、現実には高齢者が7~8割になったら、高齢者の生理・病理をわかっている先生が診てくれないと、高齢者は非常に「えらい目」に遭う。
▼これからは(医療は)そういう状況になる可能性があるので、ぜひ高齢者を総合的に診られるようなお医者さんを養成して頂きたいというのが(前回の記者会見で指摘した)事実だ。
【「医薬品メーカーには、高齢者に適切な薬を提供して頂きたい」】
▼現実に、私どもの日慢協の会員でもそうだが、80歳や90歳の高齢者の方に薬を出す時に、(苦肉の策として)今ある錠剤を「半分」や「4分の1」に割ってから投与している例が非常に多い。
▼これは60kgくらいの体重がある元気な人と、40kgくらいの方では、体重だけではなく、あらゆる臓器の機能が落ちてきている。そこに「成人並み」の薬を投与すると、オーバードーズになってしまうからだ。
【弊紙・注=オーバードーズとは、代表的な事例としては、心の病などを抱えている人などが医師から処方された薬を過剰に摂取することを指す。多量に摂取することで、嫌な感情、考えなどから現実逃避し、精神的苦痛から逃れようとする意図がある】
▼そういうことを現実に経験してくると、だんだん減らしていこうとしても「1錠を半分に割る」のもなかなか難しくなり、さらにこれを「4分の1に割る」のは、さらに至難の業になる。従って(製薬業界には)高齢者用のミリ数の少ない薬を作って頂きたい。
▼この点は、日慢協会員の先生方でもそうだが、急性期病院の先生方も感じていらっしゃる方はいっぱいると思う。ただ、メーカーとしたら、できるだけ大きな錠剤を一つ作る方が、経済コストが非常に安い。
▼ミリ数が半分になったら、製剤コストが半分になるわけではない。(製薬業界の)そういう事情はわかるが、できれば(高齢者が年々増加しているという)世の中のニーズに応えた薬を提供して頂きたいのが、われわれの望みだ。
▼もうすぐ、100歳になる方が30万・40万・50万人になろうという時代になる。ぜひ、適切な高齢者医療をキチンと研究し勉強して、健康な高齢者を増やしていきたいと、われわれ日慢協は考えている。
◇─[おわりに]─────────
5月の定例会見で、武久会長が指摘した「小児用薬剤はあるが、高齢者用薬剤は無い」ことは、言われてみて初めて、弊紙も問題点として認識できました。また「高齢者の生理・病理がわかる先生が診ないと、高齢者は『えらい目』に遭う」も、その通りです。
一般人からすれば、医療の世界に対しては「敷居の高さ」を感じてしまい、医師に対して自らの意見を述べることが難しい面もあると思います。しかし弊紙も医療の世界で取材を重ねていると、武久会長のように「問題点」を指摘し続けている方も、必ずおられます。
今後は、介護と医療の垣根がどんどん低くなる時代になると思われます。それをできるだけ早く実現するためにも、弊紙では今後も、医療側からの「問題点を解決するための提言」と、その実践例を読者の皆さんにお伝えしてまいります。
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