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*****令和2年8月30日(日)第119号*****

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コロナ渦で、高齢者は安心して介護サービスが受けられるのか?
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◇─[はじめに]─────────

 弊紙発行人の個人的な話しで恐縮ですが、86歳になる母親が以前から通所リハビリを利用していました。ところが今年2月上旬、コロナ渦の報道が続く中で「しばらく、通所を休む」と言い出しました。

 その後、何度か「家の中にいるばかりでは、筋力が衰える一方なので、通所リハに行った方が良い」と助言しても「高齢者は、コロナに感染したら死亡してしまう。怖くて行けない」と主張して、通所リハに通うことを頑として阻みました。

 弊紙発行人も「それも一理あるな」と考え、本人の意思を尊重しましたが、その後2月下旬から通所リハの方が「自主休業」に入ってしまいました。その後、この通所リハは5月下旬から要介護度が高い方から、受入れを徐々に再開しました。

 しかし母親は「やはりまだ、新型コロナの感染が怖い」と言って、通所を見合わせました。その後、6月に入ってすぐに家の中で転倒して、ケガをしてしまいました。そのケガからは2週間程度で回復したのですが、これを契機に体調を崩し、現在入院しております。

 振り返ってみれば「コロナが怖くて通所リハには行けない」と判断したことが、現在に至る起点となっています。では、今はどうなのか? 高齢者は、安心して介護サービスに通える状態になったのか? そうでないとしたら、何が課題なのか──。

 今回の弊紙ではこの1ヶ月間の、国の「高齢者に対するコロナ対策」を振り返りながら「安心して介護サービスを受けられるのか?」を考えてみたいと思います。

 日本介護新聞発行人

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高齢者施設に、PCR検査の積極的な実施を呼び掛ける
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 政府(厚生労働省)はこれまで「高齢者が新型コロナに感染すると、重症化しやすい」と繰り返し述べてきましたが、その対策として「高齢者施設の職員への、PCR検査の積極的な実施」を呼び掛けてきました。弊紙ビジネス版でも、以下のような記事を配信しました。

 ■1=厚労省・高齢者施設へのPCR検査「積極的に行うことが重要」と、都道府県に通達【8月11日(火)第319号】
 http://nippon-kaigo-b.blog.jp/archives/23361606.html

 「1」は、厚労省が都道府県に出した通達で「高齢者は重症化しやすい者が多く、クラスターが発生した場合の影響が極めて大きくなることから、高齢者施設において感染が1例でも出た場合、行政検査を実施できる」という内容です。

 「行政検査」とは、早い話しが「PCR検査が無償でできる」ということです。厚労省は「これは以前から通達していた内容だが、都道府県により解釈が異なっていたため、あらためて通達した」と述べています。

 さらに「感染者が発生した施設入所者等への検査など、感染リスクが高いと判断される場合には、 施設における感染拡大を最小化するために、 高齢者施設において積極的に検査を行うことが重要である」等と指摘しています。

 厚労省は「クラスター(集団感染)を防ぐ」ことに主眼を置き、まずは「高齢者施設でクラスターを発生させないことで、高齢者への感染を防ぐ」ことに注力したようです。しかし弊紙が気になったのは「感染が1例でも出た場合」です。

 そもそも「1例」が発生した場合は、すでに感染がまん延している可能性もあります。やはり「1例も発生していなくても、PCR検査が受けられる体制」が必要だと、弊紙では考えました。すると、このPCR検査の重要性を認識した市区町村から声が上がりました。

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市区町村が独自に、PCR検査の実施を開始する
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 東京都では8月上旬に、世田谷区長が「区民がPCR検査を『誰でも・いつでも・何度でも』受けられるようにする」との方針を打ち出しました。この具体的な施策を打ち出す前に、千代田区が先行して動きました(弊紙ビジネス版より)。

 ■2=東京都千代田区・介護施設職員約430名に、PCR検査を3ヶ月ごとに実施【8月12日(水)第320号】
 http://nippon-kaigo-b.blog.jp/archives/23370670.html

 対象となるのは区内の特養・グループホーム・ショートステイを運営する7施設(複合施設を含む。うち1施設は来年4月開設予定)で、現場の介護職員に加えて、施設の事務職員等も含まれます。区の試算では、PCR検査を受けるのは7施設合計で約430名になります。

 この約430名に対して、おおむね3ヶ月ごとに唾液採取方式のPCR検査を行います。これに先行して千代田区では7月4日から、新たな施設入所者を対象にPCR検査を行い、施設内での感染対策を強化していますが、こちらは鼻咽頭ぬぐい液方式を採用しています。

8月25日加藤大臣会見 当然、これらの対象施設は例え「1例」が発生しなくても、PCR検査が受けられます。ただしこれらの施策は、自治体間で差が出ます。この状況について加藤勝信厚労大臣=画像・8月25日の記者会見。厚労省HPより=は「大事なことは、PCR検査がしっかり行われていることだ」

 「これに加えて、検査を受けた後に陽性者の方を、入院や宿泊療養など適切な療養につなげていくことだ。これら全体の体制の確保に、しっかり取り組んでいかなければならない。世田谷区を始め、各地区でいろいろな努力・取組をされている」

 「そうした、全体として体制を整備する取組に対しては、私たち国としてできる支援はしっかり行っていきたいと思う。そうした取組を、より一層前に進めて頂けるように、我々としても対応していく」と述べています。

 その後、感染症の専門家の間から、これからの秋から冬にかけての流行が懸念されるインフルエンザと、コロナ対策との整合性を危惧する声が上がり始めました。

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高齢者に、インフルワクチンの接種を最優先で10月前半から行う
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 この指摘に対し厚労省は、次のような施策を打ち出しました(弊紙ビジネス版より)。

 ■3=厚労省・インフルワクチン「65歳以上の高齢者は、最優先で10月前半から接種開始を」【8月26日(水)第330号】
 http://nippon-kaigo-b.blog.jp/archives/23509067.html

 ここでは「次の方々が希望する場合に、ワクチン接種の機会を逸することのないよう、優先的な接種を呼びかける」として、2種類の優先対象者を挙げました。

 (1)予防接種法に基づく定期接種対象者=65歳以上の高齢者等

 (2)医療従事者、65歳未満の基礎疾患を有する人、妊婦、乳幼児~小学校低学年(2年生)

 このうち(1)の「65 歳以上の高齢者等」へのインフルエンザの予防接種は、流行阻止の効果は示されていないものの、重症化防止の効果があるとされることから、予防接種法に基づく定期接種の対象とされています。

 また厚労省は、原則として(1)の希望者は「10月前半から接種を開始し、それ以外の方は10月後半まで接種をお待ちいただくよう、国民に呼びかける」。また(2)の希望者は「10月後半から、接種を希望される方に対して接種を呼びかける」と述べています。

 インフルエンザのワクチン接種の実施期間や費用は、自治体により異なるため、接種可能な医療機関等や詳細は、居住する市区町村に確認する必要があります。ここに至り、ようやく「高齢者」に施策のターゲットが掲げられるようになりました。

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「新型コロナ・インフルの同時検査を、高齢者施設職員には一斉に、定期的に行う」
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 そしてこの前の金曜(8月28日)、安倍晋三首相が「辞意会見」を行いましたが、実はこの「辞意」を表明する前に、高齢者に対して「置き土産」とも言えるような、次の施策を発表しました(弊紙ビジネス版より)。

 ■4=「新型コロナ・インフルの同時検査を、高齢者施設職員には一斉に、定期的に行う」【8月28日(金)第332号】
 http://nippon-kaigo-b.blog.jp/archives/23529798.html

 この発表で安倍首相は「(これまでの新型コロナ対策を)今から、施策を転換する必要がある。まずは検査能力を抜本的に拡充する。これから冬までに、インフルエンザとの同時検査が可能となるよう、一日20万件の検査体制を確保する」

 「特に、重症化リスクの高い方々がおられる高齢者施設や病院では、地域の感染状況等を考慮し、職員の皆さんに対して定期的に一斉検査を行うようにし、高齢者や基礎疾患のある方々への集団感染を防止する。医療支援も、高齢者の方々等に重点化する方針だ」。

 ここでもターゲットは「高齢者施設の職員」であり、直接的に「高齢者」を対象とはしていません。しかし、こうしてみるとこの8月という、わずか1ヶ月の間に様々な動きが出ています。

 最終的には「高齢者も、施設職員も、最優先で新型コロナのワクチン接種が受けられる」ことが「最善の策」と言えるでしょう。そこに至るまでまずは、上記の「3」と「4」の施策が確実に実施されることに、弊紙は注目していきたいと思います。

◇─[おわりに]─────────

 再び、弊紙発行人の個人的な話しに戻ってしまって恐縮ですが、母親が通っている通所リハは老健の併設施設で、通所リハも老健も、新規のサービス利用者は一切お断りしています。また既存の利用者の「再開」も「介護度の高い方から」に限定しています。

 この状況は、おそらく日本全国の平均的な「現状」なのではないかと思います。また弊紙ビジネス版では、8月21日号で「認知症専門医・新型コロナの影響で4割が『受診者の症状の悪化』を認める」を配信いたしました。

 やはり「サービスの利用控え」が、高齢者に悪影響を及ぼす大きな要因であることは間違いないようです。国の施策はまだ「現状」に十分に対応できていませんが、一刻も早く、一人でも多くの高齢者が、安心してサービスの利用を「再開」できることを切に願います。

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