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┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****令和元年9月30日(月)第86号*****
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「抗生物質」は、風邪に効く?
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◇─[はじめに]─────────
本紙発行人は、1年に1度くらい風邪をひいて近所の医師に診てもらう機会があるのですが、その医師は診察の最後に「早く治るように、抗生物質を出しておこうか?」と言ってくれので、「大変ありがたいです」と感謝して毎回「抗生物質」を処方してもらいます。
「抗生物質」と聞いただけで、なんだかすごく「強力な薬」という印象があり、安堵感がありました。しかし、これは医学的に「×」です。「抗生物質」は、風邪やウイルスには効果がありません。
それどころか、このような間違った知識で「抗生物質」を使い続けていると、抗菌薬が効かなくなる菌=薬剤耐性菌=が体内に残ることになり、この菌が増えると本来、感染症に効くはずの薬を飲んでも治りにくくなったり、治らなくなったります。
薬剤耐性は「AMR」と呼ばれ、この問題を研究し、課題を解決し、それらを広く周知するため2017年4月に、国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)の中に「AMR臨床リファレンスセンター」が設立されました。
同センターは先週火曜(9月24日)に、この1年間の調査・研究成果等を公表するため、都内でマスコミ向けのセミナーを開催しました。ここで同センターは、介護施設や介護現場でもAMRの問題がどのような状況にあるのか、調査を実施したことを明らかにしました。
その内容は、10月に報告書として発表されるそうです。セミナー当日は、同センターが毎年実施しているアンケート調査の結果が発表されました。AMRの問題は、要介護の認定を受けているか否かに関わらず、重要な問題だと本紙では受け止めています。
そこで今回はAMRの基本を理解するため、セミナー当日に配布された資料等を利用して、本紙読者にも関わりが深いと思われる部分を掲載したいと思います。なお、同センターが介護施設に実施した調査結果については後日、弊紙「ビジネス版」で掲載いたします。
日本介護新聞発行人
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そもそも「抗菌薬・抗生物質」って何だ?
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細菌やウイルスといった小さな生物が原因となる病気を感染症と言います。例えば、大腸菌は膀胱炎の原因となります。このような感染症の原因となる微生物のうち、細菌を退治する薬を「抗菌薬・抗生物質」と呼びます。
また、外部から細菌が体内に入り、例えば肺炎(感染症)にかかると、治療のために「抗菌薬」を飲みます。すると「病気の元となる菌」を退治しますが、それと一緒に「もともと人間の体にすみついている菌(=他の菌)」も退治されてしまうことがあります。
体の中には無数の細菌がバランスを取りながら共に生きており、その中には「抗菌薬が効かない菌」がわずかにいることがあります。「病気の元となる菌」だけでなく、「他の菌」も退治してしまうと「抗菌薬が効かない菌」=薬剤耐性菌=だけが残ることがあります。
体内のバランスが崩れ、「他の菌」が体の中にいなくなり「薬剤耐性菌」が増えてしまう──この結果、感染症に効くはずの薬を飲んでも治りにくくなったり、治らなかったりします。同センターによれば「薬剤耐性菌により現在、世界で年間70万人が死亡している」
「残念ながら、一般の方だけでなく、医療関係者も含めてAMRの知識が不足している。AMRは日本だけでなく世界的な課題であり、このまま何の対策も取らないと2050年には約1千万人が死亡すると言われている」とし、この問題の周知の重要性を指摘しています。
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半数近くが「抗菌薬は風邪に効果がある」と誤解
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同センターでは毎年「抗菌薬・抗生物質」について、一般市民の知識や理解の現状を知るためにインターネット調査を実施しています。今年は8月に、男女・年代別のバランスを考慮して選んだ全国の688名が回答しました。
この中で、主な調査結果をご紹介します。「□」は一般的な質問で、回答は「=」。「■」は正誤がある質問で、正解は「▼」、不正解は「▽」で記しています。
□「抗菌薬・抗生物質」という言葉を聞いたことはありますか?
=60・2%「聞いたことはあるが、詳しくはわからない」
=35・5%「聞いたことがあり、詳しく知っている」
=4・4%「聞いたことはない」
「抗菌薬・抗生物質」という言葉そのものは、広く認識されていました。
■「抗菌薬・抗生物質」はウイルスをやっつける?
▽64・0%=「やっつける」=不正解
▼23・1%=「やっつけない」=正解
=12・9%=「わからない」
約3分の2の人が「抗菌薬はウイルスに効果がある」と誤解していました。本紙発行人のように「抗生物質は風邪に効く」と勘違いしている方は、この考え方が「誤解」の原因となっています。
■「抗菌薬・抗生物質」は、風邪に効果はあるか?=グラフ・同センター「抗菌薬意識調査レポート2019」より=
▽45・6%=「効果がある」=不正解
▼35・1%=「効果がない」=正解
=19・3%=「わからない」
45・6%と、半数近くが「抗菌薬は風邪に効果がある」と誤解していました。
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風邪で来院した患者の約半数に「抗菌薬」を処方
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■「抗菌薬・抗生物質」を不必要に使っていると、治療の効果が薄れる?
▼67・3%=「薄れてしまう」=正解
▽11・6%=「薄れない」=不正解
=21・1%=「わからない」
約3分の2が「抗菌薬を不必要に使うのは、よくない」と理解していました。
□直近で、風邪で医療機関を受診した時に、どんな薬が処方されていましたか?
第1位=56・1%=咳止め
第2位=54・7%=解熱剤
第3位=52・5%=「抗菌薬・抗生物質」
第4位=41・7%=鼻水を抑える薬
病状を抑える薬に加え、約半数に「抗菌薬」が処方されていました。
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「抗菌薬」は「症状を抑える薬」ではない
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ここで紹介できなかった内容も含め、今回の調査結果を踏まえて同センターでは、次の6点を指摘しています。
1、日本では(世界の調査結果と比べて)「抗菌薬・抗生物質」に関して正しい知識を持っている人の割合が低いことが明らかとなった。同様の調査が行われているヨー ロッパ諸国と比較しても、正しい知識を持っている人の割合がかなり低い。
2、一方で「不必要に使っていると効果が薄れてしまう」「処方されたらすべて飲み切る必要がある」など、「抗菌薬・抗生物質の飲み方」に関する正しい知識は、半数以上の人が持っていることが分かった。
3、風邪で受診したときに「症状を抑える薬」を希望する人が多い一方で、「抗菌薬・抗生物質」も上位に入っており、「抗菌薬・抗生物質」を「症状を抑える薬」と誤解している人がいる可能性がある。
4、実際に処方された薬にも「抗菌薬・抗生物質」が上位に入っており、 誤った処方が少なくないことや、それが「誤解」を強化している可能性が示唆される。「抗菌薬・抗生物質は風邪には効果がない」ということを、国民の一人ひとりが理解することが必要である。
5、調査から「風邪をひいても、仕事を休みたくても休めない」実情がうかがわれた。風邪を早く治し、感染拡大を防ぐためには休むことが必要であるが、そのような健康や病気に関する意識が日本の社会には十分浸透していないことも背景にあると考えられる。
6、調査から「薬剤耐性」「薬剤耐性菌」という言葉を「聞いたことはある」人は約半分であり、聞いたことがあっても正確に理解していない人が一定数いることがうかがわれた。今後も継続して、(同センターでは)一般市民に向けた啓発活動を続けていく必要がある。
◇─[おわりに]─────────
厚労省の中に、医師免許を持っている「技官」と呼ばれる官僚がいます。数年前、官僚組織の中でも「局長」まで上り詰め、退官してから母校の大学医学部に教授として「再就職」された方がいます。この方があるセミナーで講演した時に、これを聞く機会がありました。
その最初の台詞が「30年以上前、私が医学生だった時に学んだ『常識』は、今ではそのほとんどが『非常識』になっている」。学問の進歩が著しく、次々と新たな研究成果が発表されている医学の世界では、それこそ「常識」なのかも知れません。
逆の見方をすれば、大変失礼な言い方になりますが「新たな知識を学ばない医師は、『非常識』のなかで患者を診察する」のかも知れません。同センターの指摘の4番目の「誤った処方が少なくない」理由もそこにあるのでは、と考えられます。
いずれにせよ、まずは「自分の身は、自分で守る」ことが重要です。本紙発行人も次回、風邪をひいて近所の医師に診てもらった際に「早く治るように、抗生物質を出しておこうか?」と言われたら、やんわりと「お断り」をしたいと思っています。
今後ともどうか、本紙をご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
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◆本紙85号発行以降の「ビジネス版」記事(アドレスは短縮形を使用しています)
□第107号=9月23日(月・祝)=三重県、介護助手の導入事業所が離職率「半減」
https://bit.ly/2mDGSxm
□第108号=9月24日(火)=千葉県内の社福施設、20日時点で13ヶ所停電
https://bit.ly/2nDhK9V
□第109号=9月25日(水)=「介護事業の売却希望トップはデイサービス」
https://bit.ly/2nAYj1C
□第110号=9月26日(木)=特定介護、初の国内試験を10月末に実施
https://bit.ly/2mOgPU6
□第111号=9月27日(金)=介養校、入学者の約3人に1人は留学生
https://bit.ly/2mDuJsh
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