*最適な介護を、自分で選ぶための情報紙*
┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****令和元年6月29日(土)第74号*****
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「最適な医療」を、自分で選ぶには……
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◇─[はじめに]─────────
今さらながらですが、国がその構築を目指している「地域包括ケアシステム」とは、厚労省の説明によれば次のように定義されています。
「2025年(令和7年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進する」
この中核となるのは、医療と介護の二つのサービスになります。弊紙はこの中で介護に着目し「最適な介護を、自分で選ぶための情報紙」を目指してニュースを配信していますが、取材を重ねれば重ねるほど、医療と介護の深い関連性を感じます。
特に、高齢者が「最適な医療」を自分で選べているのか、というと、多くの疑問が湧いてきます。今週の弊紙「ビジネス版」第48号=6月27日付け=では、「転院してきた高齢『終末期』患者の約半分は改善する」を取り上げました。
患者の立場からだけではなく、医療従事者の立場からも「高齢者にとっての最適な医療」に対して、様々な提言がなされています。今回はこの第48号で取り上げた話題を深堀し、さらにもう一つ、「総合診療」に取り組む現場の医師の声を紹介したいと思います。
日本介護新聞発行人
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「終末期」に最適な医療とは……?
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「終末期」と聞くと、がんの末期症状を想像します。そもそも「終末期」とは、がんや神経難病以外では、日本医師会で「最善の治療を施しても病状の改善がみられない場合」等と定めているそうです。
具体的には低栄養、脱水持続状態、重症感染症、感染症重積、真性心不全、腎不全、植物状態──等が該当します。弊紙はこれまで、日本慢性期医療協会が毎月開催している定例記者会見に出席していますが、同協会の武久洋三会長はたびたび、この点に触れています。
それは、「他の医療機関(急性期病院等)が『終末期』と判断した高齢者で、慢性期病院へ紹介されてきた患者のうち、約半数程度は治療により改善する」ということです。特に武久会長が指摘しているのが、「低栄養」と「脱水持続状態」です。
これらの症状が「終末期」と判断されることにも驚きましたが、「最善の治療をしたが病状の改善が見られない」として、これらの患者が慢性期病院へ「紹介されてくる=送られてくる」と聞くと、怖さすら感じます。
これは「もう、この高齢者の病状は『終末期』だから、急性期病院である当院では面倒が見切れないので、慢性期病院で看取って欲しい」という意味になります。しかしこれに対し武久会長は、次のように指摘しています。
「特に専門医は、高齢者の低栄養や脱水による虚弱状態は『終末期』として対応することが多い。しかし治療可能で、意識のある患者に『頑張れば回復できる』と説明し、水分や栄養補給を適切に行えば病状が改善するケースが多い」
本紙は、記者会見の席で武久会長に「そのような状況で『終末期』として慢性期病院に受け入れた高齢者のうち、どのくらいの患者が回復し退院していくのか」と質問したところ、「100例あったとしたら、半分の50例くらいが該当するだろう」との回答でした。
その理由として「そもそも高齢者には、一日に必要な水分と栄養が決まっているが、急性期の医師はこの当たりの治療が不得意だ。また急性期は看護師の配置が手厚いが、ケアスタッフ(介護職員)はほとんど機能していない」
「これに対し慢性期病院は、医療とケア(介護)の両面で適切な対応ができる。特に高齢者に対してはケアが重要になってくる。今後は急性期病院であっても、看護師は看護業務に集中できるように、ケアを意識的に入れてくべきだと思う」等と指摘していいます。
さらに武久会長は「低栄養や脱水で全身状態不良の高齢者の治療は、高度急性期病院の臓器別専門医より、地域多機能病院の総合診療専門医による治療がふさわしい」とも述べています。それではその当事者である「総合診療専門医」は、どう捉えているのでしょうか。
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「内科」という領域の中でも多くの「すき間」がある
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弊紙は、6月21日に都内で開催された「仮病の見抜きかた」(金原出版)という本の出版記念の記者会見に出席しました。著者は國松淳和医師(医療法人社団永生会南多摩病院)=写真=という、総合内科とリウマチを専門としているドクターです。
國松医師は「何科の医者か、と尋ねられれば『内科』と答えている。総合内科的な能力を活かして、全身を系統的におかす病気と治療が専門だ、と答えたいところだが、患者さんのニーズに応える形で長年、不明熱・不定愁訴・診断不明・原因不明な病気と向き合ってきた」
「病名が不明だなんて、各科の専門医が知識・技術を総動員すれば、そんなことにはならないのでは、と疑問に思われるかも知れないが、実際に存在する。理由は様々あるがその一例が、専門医が多すぎることだ」
「ひと口に内科と言っても、消化器内科・腎臓内科・循環器内科・呼吸器内科など、いくつもの専門がある。各科を細胞に例えると、各科に収まらない『細かなすき間』に該当するような疾患がいくつもある」と述べています。
この「すき間」に当てはまるような患者は、次の5つの事例に分類されるそうです。
1=症状もないし、病気もない。
2=症状はあるが、病気かどうかわからない。
3=病気がありそうだが、病名がわからない。
4=病気だが、何科が診たら良いかわからない。
5=病気であり、どの科がみるかは自然とすぐに決まる。
國松医師は、「1は『健康な人』なので問題はない。4は総合内科があれば良いが、逆にみれば『たらい回し』のリスクがある。2~3は『困った患者さん』となってしまうリスクがある。特に2は、周囲から『仮病』と言われるリスクがある」と指摘しています。
その上で「私はこれまで2・3・4の患者さんの診断と治療に専念してきた。これらは、専門医や大学病院などから『わからない』『もう診られない』と言われた患者さんだ。まさに私のところに『流れ着いた』方々で、その多くが『仮病』と言われ続けた経験を持つ」。
今回、國松医師が著した「仮病の見抜きかた」=写真・本の表紙=には、その10例が小説風に紹介されています。また「これは詐病を暴く本ではない。症状以外に、患者さんには何が隠されているのか、それに医師はどう向き合うべきかの視点から、医学的なポイントを解説した」
「患者さんが、この先生はわかっていないなと感じたら、その医師もあなたのことをわかっていない可能性がある。それくらい、頻繁に医師と患者はすれ違っている。患者の発する全てをよく観察し、感じ取ることが重要だ、というメッセージを込めた」とも述べています。
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「すき間」を埋めていくような工夫を…
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この記者会見で本紙は國松医師に、「総合医の先生は今後さらに必要とされるだろうけれど、その数は実際には増えていないと思われる。その対策として、まず専門医が診て、総合医に橋渡しした方が良いのか、それとも総合医自体をもっと増やすべきか」と質問しました。
國松医師は、次のように回答しました。
「私の個人的な意見を言えば、総合医を増やすことは無理だ。本来は、呼吸器内科医の先生が呼吸器内科を全てみれば解決する。ただ実際には、呼吸器の中でも肺がんだけとか、肺気腫だけとか、専門の中である領域しか診ない」
「そういう現状だから、『すき間』が埋まらない。そこで私の提案は、例えば消化器内科だったら『全て見る』という消化器内科の先生がいれば良いと思う。総合内科は大きな病院にいると活躍できるが、今後は専門医の作り方を考えた方が良いと思う」
◇─[おわりに]─────────
武久会長の記者会見では、実際に指摘したのは「終末期の医療費について」でした。急性期病院などで「終末期」を看取ろうとした時の入院費と、慢性期病院で診た時の入院費は、倍以上違ってきます。しかも「終末期」の方が結果的に退院もできるようになります。
また國松医師が指摘したのは、「医師が先入観なしに患者と向き合うことの重要性」だと思います。いずれも、患者が「最適な医療」に巡り合うまでに、ミスマッチが起きてしまう原因を述べています。
國松医師の病院を訪れる患者さんの中には「ネットで調べてきました」という方も多くいるそうです。できればそうならる前に、地元の「かかりつけ医」から適切に、このような「最適な医療」に橋渡しされることが、本来はベストであるはずです。
しかし、そうはなっていないのも現実です。弊紙では今後も、「最適な介護」と深く関連する「最適な医療」を選択するために、役に立つ様々な情報を積極的にご紹介していきます。
今後ともどうか、弊紙をご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
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◆今週の「ビジネス版」記事(アドレスは短縮形を使用しています)
□第45号=6月24日(月)=認知症の人の見守りに「チームオレンジ」
https://bit.ly/2RKHvjv
□第46号=6月25日(火)=アジア外国人材、希望職種で「介護」は11番目
https://bit.ly/2XfVsvN
□第47号=6月26日(水)=新聞販売店が、高齢者等に「焼き立てパン」を宅配
https://bit.ly/2ZX2LWm
□第48号=6月27日(木)=「転院してきた高齢『終末期』患者の約半分は改善する」
https://bit.ly/2XiGB3Z
□第49号=6月28日(金)=特定技能「介護」、合格率約7割から4割程度に急落
https://bit.ly/2xu6z5j
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