*最適な介護を、自分で選ぶための情報紙*
┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****平成31年2月26日(火)第53号*****

◆◇◆◆◆─────────────
「地域包括ケアシステム」の弱点(下)
─────────────◆◇◇◆◆

◇─[はじめに]─────────

 このところ、2回に分けて「『地域包括ケアシステム』の弱点」を連載しましたが、読者の方々から様々なご意見を頂きました。最も多かったのが「介護保険に関わることは、何でもすぐに行政に頼ろうとする姿勢が問題だ」という指摘でした。

 同様に「行政に頼らないところから、地域包括ケアは始まる」という意見も頂きました。この問題に対する弊紙の結論も、実はその通りです。行政の力には限界があります。それを発行人は、介護保険の施策を立案する行政側に立った時に、痛感いたしました。

 ただ同時に「では、行政に頼らずに民間の力で地域包括ケアシステムが構築していけるのか?」というと「極めて困難だ」ということも事実だと思います。日本全国の中では、確かに地元の介護事業者等が中心になって「システム」の構築に努めている事例もあります。

 たぶん介護保険の運営力では全国でも標準的ではないかと思われるA市でも、現状を踏まえると「民間主導のシステムの構築は極めて困難」と言わざるを得ません。では、どうすれば良いのか――連載のまとめとなる今号で、弊紙なりの結論をご提示したいと思います。

 日本介護新聞発行人

◆───────────────────
まず「地域支援事業」の利用率向上が最優先
───────────────────◆

 過去2回の記事でお伝えしましたように、発行人は平成27年10月から3年間、A市という地方都市の「介護保険運営協議会委員」を務めました。会議の度に事務局(=A市の介護保険課)に質問し続ける発行人を見かねたのか、ある委員が声をかけてきました。

 その方――Cさんは、地元の方ではないのですがサラリーマンとして介護事業所の責任者を任され「本当は本業が多忙なので受けたくはなかった」という介護保険運営協議会の委員を、A市から「順番ですから」と言われて「仕方なく受けた」という方でした。

 Cさんから最初に言われたのが「あなたが指摘していることは正論だが、実際に介護保険の現場の最前線にいる私たちからすれば、正論だけでは事業が円滑に運営できない」ということでした。

 その後、Cさんの意見を最後まで伺ったのですが、いずれの話しも「介護事業者側からの視点」に立ったもので、「介護保険の利用者側の視点」が全く含まれていませんでした。おそらく、反論をしても議論は平行線で終わる可能性が高いと思われました。

 ただ、よく話しを聞いてみると、この方はもうすぐ転勤の予定で、しばらくするとA市と関わりがなくなる可能性が高いため、「最後の忠告」の意味で発行人の身の上を心配して声をかけてくれた、という印象を強く受けました。

 立場と意見は違えども、何か質問すればこの方なら「正直」に回答してくれるのではないかと思い「ご指摘は大変ありがたい」とお礼を述べた上で「できれば、介護の現場を知らない自分のためにご助言頂きたい」とお願いしたら、快く「本音」を語ってくれました。

 第1問目として発行人が質問したのは「なぜ『センター』のケアマネはB事業所ではなく『地域支援事業』を勧めてきたのか?」(内容の詳細は前々号をご参照下さい)でした。Cさんは「これはあくまで私の個人的な見解だ」と断った上で、次のように回答しました。

 「地域支援事業は、運営を開始するまで3年間の猶予期間があるが、A市はそれを利用せずに最初の年から事業を開始した。近隣の自治体はまだ『様子見状態』であるにも関わらず、A市では『他の自治体に先がけて率先して取り組んでいる』という強い自負がある」

 「その結果が最も顕著に表れるのが『利用率』だ。私たちのような、A市で介護事業を営む『地元』事業者は、このA市の施策に全面的に協力する必要がある。そこであなたの母親のケアマネも忖度(そんたく)してB事業者ではなく地域支援事業を勧めてきたのだろう」

◆───────────────────
 「地元」より「地場」事業者が最優先
───────────────────◆

 第2問目は「なぜA市は、大手介護事業者が『地域支援事業』を希望しても『拒否』したのか?」でした。Cさんは「私たちは営業所があることで『地元』を名乗るが、いくら地元のために努力しても小規模で運営している『地場』事業者とは異なる」と前置きしました。

 「地域支援事業を実施するにしても、まずは『地場』事業者に取り組んでもらいたい、というのがA市の本音だろう。『地場』事業者や、NPO法人ではどうしても『手が回らない』時にはじめて、私たちのような『地元』事業者にお声がかかる、というのが慣例だ」

 「介護保険制度はあくまで各自治体が保険者だ。保険者の立場からすれば、まずは小規模でも地場事業者に頑張ってもらうことで地域も活性化する、と考えるのが当然だろう。これは介護事業に限らず、様々な『地域振興活動』も同様に考えるのが標準的ではないか」

◆───────────────────
行政は「センターの円滑な運営」を最も重視
───────────────────◆

 第3問目は「なぜ要支援の認定者は『センター』のケアマネしか利用できないのか?」でした。Cさんは「正直なところ、本当の理由は全くわからない。これは本当にあくまで、事実かどうかは不明だが、個人的な推測として聞いてもらいたい」と前置きしました。

 「そもそも地域包括支援センターの多くは、外部の民間事業者に運営を委託している。そのためA市からは委託料が支払われているが、おそらくこの委託料だけではセンターを運営していくのは厳しいのではないか」

 「当然、何らかの『利益が見込める事業』がないと、そもそも民間事業者も委託事業者の募集に手を挙げないだろう。その中の一環として、要支援者のケアマネジメントの依頼窓口をセンターに一本化すれば、数は少ないかもしれないがある程度の『顧客』が見込める」

 「その要支援者のケアマネジメントを継続的に行っていれば、やがてその方が要介護になった場合でも引き続きケアマネジメントに携われる可能性が高い。これらの事業を、本来の委託事業とは『別収入』とすれば、委託された事業者も『やる気』が出るのではないか」

 「これは『裏技』としてあなたに教えるが、どうしても要支援者がケアマネを変えたい時は、要はセンターのケアマネなら誰でも良いのだから、あなたの母親が世話になっているセンターではなく、他のセンターのケアマネに依頼すれば『変更』することは可能だ」

 「ただし『変更』を打診されたセンターのケアマネは、おそらくやんわりと『お断り』するだろう。そもそも地域包括ケアシステムはセンターを中心に中学校区の範囲で運営することが前提になっている。言い方はよくないが『縄張り』が存在するのも事実だ」

 「あと、あなたは『なぜ会議でセンターの職員は積極的に発言しないのか?』と指摘するが、私のこれまでの説明を聞いてもらえば理解できたと思うが、センター同士もある意味で『ライバル』だ。さらに仕事の依頼主として、A市の存在があり『目』を気にする」

 「このような力関係の元で『自由な発言をしてくれ』と言っても、それは無理だ。ましてセンターのケアマネといえどもサラリーマンに過ぎない。様々な制約の元で、それでもA市の介護事業の発展のためケアマネの皆さんも精一杯努力していると私は高く評価している」

◆───────────────────
 最低限、ケアマネだけは自由な選択を……
───────────────────◆

 私はCさんの説明を「理解」はしましたが、やはり「納得」はできませんでした。今回の冒頭の「はじめに」にも書きましたが、Cさんの意見はあくまで介護事業者側のみの視点で、サービス利用者の視点がほとんど考慮されていませんでした。

 しかし、勇気を出して「本音」を語ってくれたCさんに対し、発行人は心より謝意を述べました。おそらくCさんも、本音では私の意見と同じく「A市の介護保険も、サービス利用者の視点に立った制度の改善が必要」と感じているのだな、と推察いたしました。

 今回も含め「『地域包括ケアシステム』の弱点」というタイトルで記事を3回連載してきましたが、結論は「行政主導で構築されるシステムでは、問題点の発見と改善が困難で、行政やサービス事業者側の視点が優先され、サービス利用者の視点が反映されにくい」でした。

 その解決策としては、ベストなのは「行政に頼らず民間主導でシステムを構築すること」ですが、全ての地域でこれが実践されるのは非常に困難だと思います。では、サービス利用者はどうすれば良いのか……?

 まず、例え要支援者でもケアマネは自由に選択できるように制度を改正すべきでしょう。Cさんの指摘通り、制度上は「変更」できますが、「自由に変更」することが難しい現状では、今後の増加が見込まれる要支援者へのきめ細かな対応は困難だと思われます。

 この点は今後も弊紙は訴えていきたいと思いますが、これは国の介護保険制度の根幹に関わることで、すぐに改正されるとは考えにくいのが実情です。本来は、信頼できるケアマネと出会えることがベストでしょうが、それが適わない場合どうするか……?

 これが発行人の場合、前々号で書きましたが介護保険に関する書籍を2冊購入して、端から端まで熟読して解決策を自ら探し出しました。しかし多忙な方や、そもそも介護保険に対して関心が薄い方にこのようなやり方はお薦めできません。

 そこで発行人が考えたのが「せめて、日ごろから何らかの形で介護に関するニュースや情報に継続的に接していることで、頭の片隅に『キーワード』を残しておいてもらいたい」ということでした。例えば発行人の場合は「通所リハ」が問題解決のキーワードでした。

 難しい介護関係のニュースでも、読み流してもキーワードが頭に残れば「最適な介護を、自分で選ぶ」きっかけになるのでは……、またケアマネに自らの意見も提案できるのでは……、それを実現したいと考え、平成28年12月1日に日本介護新聞を創刊した次第です。

◇─[おわりに]───────────

 長い文書を最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。

 この3回の連載では、行政や現場の介護事業者に対して厳しい見方をしてきましたが、彼らが自らの仕事に手を抜いているのかと言えば、そんなことは決してないと思います。

 ただ「利用者の視点」が、行政の施策や事業の運営から明らかに欠け落ちている点があるのは否めないと思います。弊紙は今後も、今回ご紹介した「創業の原点」を忘れずに、継続して皆さんにニュースを配信していきたいと考えております。

 今後ともどうか弊紙をご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

───────────────────◇

公式ホームページ=http://n-kaigo.wixsite.com/kaigo
デイリー電子版=http://n-kaigo.wixsite.com/kaigo/blog
弊紙専用アドレス=n-kaigo@nifty.com
弊紙ツイッター=https://twitter.com/Nippon_Kaigo
Facebookページ=https://www.facebook.com/nipponkaigo

(C)2019 日本介護新聞