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┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌日本介護新聞┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌┌
*****平成30年10月31日(水)第47号*****

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 日本の「介護」は、外国人材をどのように受け入れるのか?
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◇―[はじめに]―――――――――――

 前回の第46号を9月16日(日)に発行して以来、今回の発行まで約1ヶ月半も空いてしまいました。まずはこの点について、読者の皆様に深くお詫び申し上げます。

 実はこの1ヶ月半で、弊紙発行人の周囲で様々な出来事が起き、結果的に本業として勤めていた会社を退職いたしました。

 退職を決意した時点では、とりあえず副業的に行っていた「日本介護新聞」の発行だけは従来通りに継続していくつもりだったのですが退職確定後、本業でお世話になった方々へご挨拶周りをしている時に、ある方から「今後はどうするのだ?」と問われました。

 その際に、副業として取り組んできた「日本介護新聞」の発行を継続していく意思を伝えたところ「それは、ぜひやるべきだ」と応援の言葉を頂き、併せて「できるだけの協力はする」とのお申し出を頂きました。

 このような経緯で今後、発行人は「日本介護新聞」の発行を、新たな形で継続することができるようになりました。具体的にどのような方式で継続していくのかは未定ですが、内容が確定し次第、読者の皆様にはお伝えいたします。

 今回は、発行人がこれまで本業で追い続けてきたテーマ「介護業界における外国人材の受入れ」について、例え「全く予備知識がない」という読者の皆様にも、「このような状況なのか……」と頭の中でぼんやりとイメージだけでもつかんで頂けるよう、わかりやすくお伝えしたいと思います。

 日本介護新聞発行人

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 「新たな在留資格」と「外国人技能実習制度」
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 最近、テレビのニュース番組や新聞で「新たな在留資格」とか「特定技能」という言葉を耳にする機会が増えたと思います。マスコミは「安倍首相は慎重な議論をせずに、来年4月に実施することだけを考えている」等と批判しています。その「特定技能」の対象となる職種に「介護」も含まれています。

 「介護」に外国人材を受け入れることの是非は別の機会に考察いたしますが、例え「来年4月に実施」できないとしても、当初の想定よりどれだけ遅れようと、政府はこの「特定技能」を必ず実施すると思われます。

 実はこの「特定技能」とは別に、昨年11月1日から「外国人技能実習制度」に「介護職」が追加され、こちらでは一足先に外国人材の受入れが可能になりました。

 「そもそも、『技能実習』と『特定技能』は何が違うのか?」「介護職は『技能実習』で外国人材が受け入れられるようになったのに、なぜ『特定技能』でさらに受入れ手段を増やすのか?」―――一般の方々には全く不可解だと思います。

 そこで今回は、この2つの疑問点に絞って「介護職における外国人材の受入れ」を考えてみたいと思います。

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 「技能実習」と「特定技能」は何が違うのか?
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 この答えを一言で言えば、次のようになります。

 ▽技能実習=「国際貢献」が目的。実習生は最長で5年まで日本で技能を学び、その後は帰国して、その技能を母国の経済発展のために役立てる。
 ▼特定技能=「人材確保」が目的。日本人労働者だけでは不足している業種に限り、外国人材にまず5年間働いてもらい(=特定技能1号)、その後、日本で永続的に働けるような道(=特定技能2号)も用意しておく。

 このうち、「技能実習」は「国際貢献」が目的であるにも関わらず、実態は「人材確保」でした。この矛盾が過去に様々なトラブルを招き、これに対し政府は規制を強化した上で、昨年11月1日から新たな法律の下で「新技能実習制度」を再スタートさせました。

 この「新技能実習制度」の開始とともに、「介護職」も新たな対象職種として追加されました。この際「介護職種だけは、他の技能実習の対象職種と異なり、初めての対人サービスとなる。このため他の職種にはなかった『日本語能力』を入国する実習生に課す」ことが決定しました。

 具体的には、次のようになりました。

 ▽日本に入国する際に、日本語能力検定「N4程度」=基本的な日本語が理解できるレベル
 ▽実習1年目から2年目に移行する際に、日本語能力検定「N3程度」=日常的に使われる日本語を、ある程度理解することができるレベル

 この内容が決定した時にも、例えば介護現場では「N3程度では実際の現場ではほとんど役に立たない」等の問題点が指摘されましたが、それ以上に大きな影響があったのが、実習生を送り出す側の東南アジア諸国の反応でした。

 「介護職で実習生を送り出そうとすると、『N4程度』まで日本語能力を習得させるのに学習時間と費用がかかる。そうやって苦労して送り出した実習生が、実習2年に移行する際に『N3程度』の試験に受からなければ、強制的に帰国させられてしまう」と指摘し、「例え『N3程度』の試験に不合格でも、何らかの救済措置を講じて欲しい」と日本政府に強く要望した、と言われています。

 実はこの日本語能力試験は、「読む」能力を問うペーパーテストと、「聞く」力を測る聞き取りテストの二つから構成され、「話す」能力は一切問われません。

 さらに、日本語学校のある経営者は「仮に『N4』に合格した東南アジアの留学生が来日して、日本で『N3』の試験に合格しようとすれば、1日8時間・週5日、最低でも3ヶ月は継続して、集中的に試験対策の勉強をしないと合格は望めない」と指摘しています。

 それだけ「N4」から「N3」への「壁」は高いと言えそうです。実際に「N4程度」で来日した介護職の技能実習生は、受入れ側の介護事業者の元へ行けば、すぐに現場で働くことになります。

 よほど余裕のある受入れ事業者でなければ、実習生の就業時間中、試験勉強に多くの時間を割くのは困難だと思われます。結果的に実習生は、慣れぬ日本の生活に苦労しながらも、自習により「N3程度」合格への努力を強いられることになります。

 この結果、当初は介護職の実習生として1番人気であったベトナムは、つい最近まで「日本政府から『救済措置』に関する正式な回答があるまでは、介護職の実習生の送り出し(=実習生の出国)は許可しない」という方針を取ってきました。

 その後、ようやく「解禁」したものの、まだその門はようやく開いた程度でしかなく、実態としてベトナムの実習生の入国はまだ少数にとどまっているようです。

 このベトナムの動きは他の諸国にも影響を与え、ベトナムに次いで2番人気だったミャンマーも、同様につい最近になってようやく「解禁」に踏み切りました。結果として介護職の技能実習生全体でも、現在日本に入国しているのは「百人にも達していないのではないか」と言われています。

 これに対し「特定技能1号」(=5年間就労可能)は介護職以外も含め、全職種で次のような受入れ要件を課しています。

 ▼技能水準=受入れ分野で即戦力として活動するために必要な知識又は経験を有することとし,業所管省庁が定める試験等によって確認する。
 ▼日本語能力水準=ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有することを基本としつつ、受入れ分野ごとに業務上必要な能力水準を考慮して定める試験等によって確認する。

 このうち「日本語能力水準」は「N4程度」と言われています。結果的に二つの試験に合格しないと「特定技能1号」で入国することは不可能ですが、特例措置として「技能実習2号(=技能実習3年目まで)を修了した者は、上記試験等を免除する」との規定も設けられています。

 これらのことを踏まえると、「技能実習」と「特定技能」の関係は次のように整理できます。

 ▽「技能実習」で3年間働いて(=実習2年目に「N3程度」に合格して)、その後「特定技能」でさらに5年間働こうとすれば、無試験で移行できる。
 ▼「技能実習」を経ないで、いきなり「特定技能」で5年間働こうとすれば、2種類の試験に合格しないと入国できない。

 この中の「実習2年目に『N3程度』に合格」が、介護職に限って言えば、二つの制度の最大の違いになります。

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 なぜ「特定技能」で介護職を対象にするのか?
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 一見すれば、「技能実習」を経て「特定技能」へ移行した方が、「長期間(合計8年間)働ける」「無試験で移行できる」と、メリットがあるように思えます。

 しかし現実には、実際に「特定技能」の詳細な制度設計が出来上がれば、「この二つのメリットが完全に崩れる可能性が強い」と、関係者の間では言われています。

 具体的には、次の三つが理由に挙げられています。

 ▼「特定技能1号」(=5年間の労働)から「特定技能2号(=永住的に労働できる)へ移行するには、現時点では「業所管省庁が定める一定の試験に合格すること等で移行することが可能」と規定されているが、この「一定の試験」のレベルが高く設定されることは考えにくい。
 ▼もし「高くないレベル」で「特定技能2号」に移行できるのであれば、わざわざ「技能実習」で3年間就労する意味はない。最初から「特定技能1号」で入国し、できるだけ早期に「特定技能2号」に移行した方が、「早期に・長期間」日本で働くことができる。
 ▼「特定技能1号」で課せられる「日本語能力水準」は「N4程度」と想定されており、これだと「技能実習」と同じだが、実際には「会話能力中心のテスト」で、実質的に「N4程度の試験より簡単に合格できる」と言われている。

 先ほども述べた通り、「技能実習」で「入国2年目移行時にN3程度」の日本語能力を課したことは、ベトナムを始めとした諸外国の「反発」を招きました。

 しかし、すでに「技能実習」は詳細な制度設計が完成しており、しかも受入れは始まったばかりです。ここで、日本語能力要件等の「制度変更」をすれば、「だからもっと慎重に議論すべきだったのだ」との批判を浴びかねません。

 結論として「『技能実習』の制度を今さら変更することはできない。しかし、介護職の外国人材は早急に必要だ。それなら『特定技能』の介護職を『より受入れ易い制度』にして、介護職の外国人材はこちらで大量に受け入れることにしよう」――政府はこう考えた、というのが弊紙の推測です。

◇―[おわりに]――――――――――――

 長い文書を最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。

 弊紙が取材した範囲では「介護職の外国人材は、送り出す外国側も、受け入れる日本側も、『特定技能』の制度設計を待って『技能実習と比べて、どちらが簡単なのか?』を推しはかっている状況」だと推測できます。

 今回は、あくまで二つの制度の違いを中心に考察しましたが、最も大切なのは「介護現場で必要とされる『外国人材』を送り出し、日本で教育し、働き続けることができる制度になっているのか」のはずです。

 弊紙では今後も、この視点を忘れずに読者の皆様に情報提供を続けていきたいと思います。また、冒頭でも述べましたように、今後は「新たな形」で日本介護新聞の発行を継続して参ります。その詳細が決まりましたら、すぐにお知らせいたします。

 今後ともどうか弊紙をご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

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