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*****令和元年6月21日(金)第71号*****

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連載第2回=認知症の「予防」「バリアフリー」とは何か?
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◇─[はじめに]─────────

 鈴木隼人衆議院議員が主催する「認知症国会勉強会」を取材していて、いつも感じるのは「全国には『草の根』で認知症と向かい合っている人たちが多い」ということです。特に「現場」の最前線で、認知症の方と向かい合っている人たちが講師として登壇します。

 この「勉強会」のような場があるからこそ、弊紙もこのような「草の根」の取り組みを知ることができますが、残念ながらそれらの「好事例」はなかなか世間一般に広く知られる機会がありません。

 それは、なぜなのか? それでは、どんな取り組みをすれば広く知られるようになるのか? ……今回の連載第2回目は、そんな疑問に応える内容になっています。どうか期待してご一読下さい。

 日本介護新聞発行人

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 なぜ、認知症を「予防」するのか?
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 □本紙=「認知症基本法」の三本柱の1番目「予防」について。そもそもなぜ「予防」が必要なのか? また現状で「予防」が普及しないのは、なぜか?

 ■鈴木=写真・認知症国会勉強会にて撮影=世間では「どうせ予防なんて意味がない」との見方をする方が非常に多い。これをなんとかしないと、現状は何も変わらない。特に、医学関係者や著名な評論家の方々が「予防なんて……」と述べると、予防している人は何も言えない感じになる。
鈴木先生2
 認知症予防の活動をしている方々も社会に対して「間違いなく効果がある」と明確に主張できるかといえば、「これはきっと意味があるはず」くらいしか言えない。こうして根拠を主張できずに批判ばかり浴び続ける状況は、予防活動をする方々のモチベーションの継続という点で課題となる。

 私自身も「認知症予防の会」を立ち上げ、高齢者施設を継続的に訪問している。そんな時、お年寄りの方に「これは認知症予防に本当に効くんですよ」と言うことができれば、「それなら自分たちだけの時もやってみようかしら」となるはずだが、実態はそうではない。

 人間、楽しかったり効果がはっきり期待できることでなければ続かない。結局、認知症予防の取組がなかなか普及しない原因は「エビデンス(証拠・根拠)」の欠如によるところが大きい。

 この「エビデンス」の構築に向けては、日本全国の研究者に懸命な取組を続けていただいているが、残念ながら多くの研究結果は被験者数が少なすぎて、統計上有意と見なすことができないのが実情だ。

 全国でどれだけ多くの研究者が努力を重ねても、結果的に一部のコミュニティでしかその成果が認められない。「ここを解決しないと全く先に進めない」という問題意識もあり、私は今回の「認知症基本法」で予防を大きな柱に据えた。

 そして、法律の中で「全国規模の追跡調査を行う」ことを明記した。これにより、これまで個々の研究者が小規模に取り組んでいた研究が、国のバックアップも得ながら一つにつながっていくことになる。

 全国規模で、みんなが協力し合ってプロトコル(予め定められている規定・手順・試験・治療計画などのこと)をそろえて研究をすることで「エビデンス」を確立していく。これができれば、世の中はガラッと変わるだろう。

 そうして「やはり予防は大事だったんだ。効くんだ」「それなら私もやりたい」という機運を醸成していく。ここは非常に大事な点だと、私は考えている。

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 認知症の「バリアフリー」とは、何か?
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 □本紙=「認知症基本法」の三本柱の2番目「バリアフリー」について。そもそも「バリアフリー」とは、具体的にどのようなことなのか?

 ■鈴木=まず歴史的な経緯からご説明したい。もともと、世界的にもわが国こそが認知症対策の先進国であった。オレンジリングの活動をいち早く始めて、それをイギリスが「日本の取り組みは良い」と評価し、独自の手法で取り入れた。

 そうしたら本家本元の日本をはるかに追い越し、「認知症フレンドリー」先進国として名を馳せていった。では、イギリスでは一体何をやっているのか?

 まず、産業界が業界ごとに「認知症フレンドリー宣言」という名のアクションプランを策定・公表した。しかも宣言するだけではなく、現場の隅々までアクションを落とし込んでいった。例えば銀行であれば、認知症のお客さんらしき人が来て、ATMの操作に困っていれば、寄り添ってサポートしてあげる。

 また、バスの運転手さんであればお年寄りが乗ってきた時に「どこで降りるのですか?」と聞いておき、停留所に着いたら「着きましたよ」と教えてあげる。

 ところで皆さんも「親の財布が小銭で太り始めたら認知症を疑え」という言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。

 実はこの「財布が太る」という現象、認知症当事者の人たちに聞くとれっきとした理由があることがわかる。「レジなどで支払いに時間がかかると列がつかえてしまうので、とりあえず大きいお札で払っている」というのだ。そこで、そういった声を受けて、ゆっくり支払いをしたい人のためのレジ「スローレーン」をつくったスーパーがある。

 そうしたら、認知症の方や障害をもった方がこの「スローレーン」を利用し始め、なんとスーパーの売上が1.4倍になったということだ。

 わが国も諸外国の良い取組を積極的に吸収し、もう一度認知症対策の先進国を目指すべきだ。認知症の人たちが生きがいを感じながら笑顔で過ごせる、そして家族も安心できる、そんな社会をつくっていく。課題感は広く国民に共有されつつある。今がその時だ。

 そんな思いから「認知症基本法」では「認知症バリアフリー」を大きな柱に据えた。そして法律の中に、わが国の法律史上初とも言える、極めて画期的な項目を盛り込んだ。

 それは、「産業界の責務」として、サービス提供時に認知症の人への配慮を行うよう努めるべき旨を規定したことだ。通常、「国の責務」「地方公共団体の責務」などはよく置かれるが、「産業界の責務」はこれが初めてだ。

 なぜこれを盛り込んだのかというと、これから官民挙げて認知症対策を抜本的に強化していく中で、(イギリスのように)産業界自らが認知症バリアフリー社会の実現に向けて積極的に取り組んでいく、そういう社会を「認知症基本法」をきっかけにしてつくっていきたかったからだ。

 実際、産業界も協力的で、このたび政府内に立ち上げた「日本認知症官民協議会」には多くの業界が参加し、前向きな検討がスタートしている。まさに国を挙げた「認知症バリアフリー」の取組が「認知症基本法」を機に大きく動き出していくことを、私は確信している。

◇─[おわりに]─────────

 最近は様々な業種から「今度、認知症予防に非常に効果的な、こんな商品を発売する」との記者発表会の案内を受け取る機会が増えました。確かに、それなりに「エビデンス」を持った商品であり、実際に手に触れたり取り組んだりしてみると、その効果は実感します。

 しかしなぜか、その後それらの商品が世間から注目を浴びるまでに至った事例は、残念ながらありません。当初は事業者側のPR不足の問題なのかと思いましたが、今回の鈴木議員の話を聞いていて「そうではないな」と認識しました。

 認知症「予防」の「エビデンス」が確立するには、それなりの時間がかかると思われます。しかし「バリアフリー」の取り組みはすぐにでもできることが、記事中の事例の通りいくつかあります。まずどこかの事業者が率先して「名乗り」を挙げてもらえれば……と思います。

 今後ともどうか、弊紙をご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

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