日本介護新聞バックナンバー

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*最適な介護を、自分で選ぶための情報紙*
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*****令和5年11月30日(木)第166号*****

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「今後もコロナワクチン接種率は『低迷』が予想されるが、これで良いのか……?」
─────────────◆◇◇◆

◇─[はじめに]───────────

 日本介護新聞では、2種類の媒体を配信しています。一つは主に、介護保険サービスを実際に利用されている方々やその家族などを読者に想定した、現在お読み頂いているこの「本紙」――

 もう一つは介護従事者など、実際に介護の現場で働いている方に向けた「ビジネス版」です。一昨日この「ビジネス版」で=コロナワクチン「秋開始接種」高齢者施設接種率9月末で85.4%、厚労省「再調査する」=というタイトルで記事を配信しました。

 この記事の要旨は「今年9月20日に開始した、新型コロナワクチンの『秋開始接種』で、高齢者施設の入所者と介護従事者の接種率を厚労省が調べたところ、接種開始からわずか10日(=9月30日)の時点の接種率が『85.4%』だった」

 「しかし厚労省は、この『85.4%』では十分だと考えておらず、再調査をするように都道府県などに指示した」という内容です。「わずか10日間で8割以上に達していれば、これで十分ではないか?」と、多くの方が受け止めるのではないかと思います。

 要は、厚労省は「全国の高齢者施設の入所者などの接種率が100%になるまで、徹底的に確認する」という姿勢を示したものと思われます。もう1点、この記事を書くに当たって、高齢者施設の入所者などを含めた、全国の高齢者の接種率も調べました。

 こちらは、一昨日(11月28日)に政府が公表した最新のデータですが、65歳以上の高齢者の「秋開始接種」の接種率は「40.8%」です。さらに、高齢者も含めた国民全体の接種率は「16.5%」です。

 念のため繰り返しますが、この「40.8%」と「16.5%」は、9月20日に「秋開始接種」が開始されてから約2ヶ月後の結果で、高齢者施設の「85.4%」は接種が始まってからわずか10日後の割合です。

 おそらく、この「40.8%」と「16.5%」は今後、年末年始にかけて再び新型コロナの感染拡大の新たな「波」が生じれば、多少はその接種率も上昇するかも知れませんが、最終的にはこのレベルに多少上積みがある程度に終わると思われます。

 この接種率の「ギャップ」をどう解釈すれば良いのか――弊紙発行人なりに考えた時に、思い浮かんだのがこの記事のタイトル=「今後もコロナワクチン接種率は『低迷』が予想されるが、これで良いのか……?」=です。

 介護事業者や、高齢者が身近にいて一緒に生活している家族は「高齢者に感染させないためにも、今後もなるべく多くの人が新型コロナワクチンを接種した方が良い」と考えるでしょう。

 しかし、65歳以上の高齢者の中でも「40.8%」に該当しない残り約6割の方、また高齢者を含めた全国民の「16.5%」以外の約8割以上の方は、そのほとんどが「今後、新型コロナのワクチンは接種しないだろう」と考えているのではないかと推察します。

 ザックリと言えば、全国民の約8割が、今後の新型コロナワクチンに対し「接種しないだろう」と否定的に考えている中で、約2割の「接種した方が良い」と肯定的に考える方々は「日常生活を送る」ことになるのではないか……と推測しました。

 本当に、約8割もの国民が「接種しないだろう」と考えているのか――? この点を調査した結果がないかと検索したら、本紙でも何度か記事として紹介している東京都の感染防止対策の公的機関である東京iCDCが、都民を対象に調査を実施していました。

 タイトルは「新型コロナウイルスのワクチンに関する意識」です。今から約5ヶ月前の6月に発表された内容ですが、その調査が実施されたのは今年2月なので、新型コロナが今年5月8日に「5類」に移行する前になります。

 まだ、多くの都民が新型コロナに対して「警戒感」を今以上に抱いている時期でもあり、一つの参考データとなるのではないかと考えました。今回の本紙はまず、この東京iCDCが6月に実施した調査の結果をご紹介したいと思います。

 その上で、今後のコロナワクチンの接種のあり方を考察してみたいと思います。どうか最後まで、ご一読頂ければ幸いです。

 日本介護新聞発行人

──────────────────◇

 今回の調査を実施した「東京iCDC」は、感染症に関する政策立案、危機管理、調査・分析、情報収集・発信など、効果的な感染症対策を一体的に担う常設の司令塔で、東京都の新型コロナの感染防止対策に様々なデータを提供し、提言もしてきました。

 「はじめに」でも記したように今回の本紙では、東京iCDCが今年6月5日に公表した「新型コロナウイルスのワクチンに関する意識」の中で、今回の本紙記事の趣旨に関連する項目について、ご紹介いたします。

 内容の一部は本紙読者にわかりやすいように、記事に関連する部分の結果のみを抜粋しています。この点をご了承の上、読み進めて頂きたいと思います。なお内容の一部は、過去に弊紙で記事として配信をしております。調査の概要は次の通りです。

 ■調査対象=東京都在住の20代~70代の都民とし、年齢構成を都の人口比率に合わせた割当抽出を行った。
 ■調査期間=今年2月15日~21日までの1週間。有効回収票数は1万0,429人。

 さらに、記事中の「▼」印はワクチン接種に肯定的な回答で「◆」印はそれに対する東京iCDCの解説。同様に「▽」印はワクチン接種に否定的な回答で「◇」印も同様に、それに対して東京iCDCが説明した内容です。

◆───────────────────
質問1=あなたは、新型コロナワクチンの接種を受けたか?
───────────────────◆

 ▼21.9%=「すでに5回接種した」
 ▼28.6%=「すでに4回接種した」
 ▼24.8%=「すでに3回接種した」
 ▼9.5%=「すでに2回接種した」
 ▽3.1%=「まだ接種しておらず、今後もおそらく接種しない」
 ▽5.4%=「まだ接種しておらず、今後も絶対に接種しない」
 ▽4.9%=「まだ接種しておらず、今後はどうするかわからない」

 ◆回答した方のうち、「5回接種した」と「4回接種した」を合計すると5割を超えており「3回接種した」を含めると、その割合は75%以上となっている。

 ◇一方、「まだ接種しておらず、今後もおそらく接種しない」「まだ接種しておらず、今後も絶対に接種しない」「まだ接種しておらず、今後はどうするかわからない」との回答を合計すると、1割以上になった。

◆───────────────────
質問2=「すでに接種した」「まだ接種していないが、今後必ず接種する」と回答した方へ、その理由は何か?(複数回答)
───────────────────◆

 ▼47.6%=「接種費用が無料だから」
 ▼43.6%=「新型コロナのワクチンに効果があると思うから」
 ▼32.2%=「社会全体の感染対策につながると思うから」

 ◆接種の理由については「接種費用が無料だから」が約5割と最も高く、「新型コロナのワクチンに効果があると思うから」が約4割、「社会全体の感染対策につながると思うから」が約3割で続いた。

◆───────────────────
質問3=「まだ接種しておらず、今後もおそらく接種しない」「まだ接種しておらず、今後も絶対に接種しない」「まだ接種しておらず、今後どうするかはわからない」と答えた方へ、それはなぜか?(複数回答)
───────────────────◆

 ▽35.3%=「新型コロナのワクチンの効果に疑問があるから」
 ▽35.1%=「新型コロナのワクチンの副反応が心配だから」
 ▽28.3%=「新型コロナのワクチンの重篤な健康被害が心配だから」

 ◇接種しない理由については「新型コロナのワクチンの効果に疑問があるから」「新型コロナのワクチンの副反応が心配だから」との回答がいずれも約35%となっており「新型コロナのワクチンの重篤な健康被害が心配だから」との回答も約28%となった。

◆───────────────────
質問4=「すでに1~5回接種した」と答えた方へ、あなたは次回の新型コロナワクチンの接種について、どのようにお考えか?
───────────────────◆

 ▼21.5%=「なるべく早く接種したい」
 ▼40.7%=「急がないが接種したい」
 ▽20.4%=「おそらく接種しない」
 ▽4.7%=「絶対に接種しない」

 ◆回答結果は「なるべく早く接種したい」「急がないが接種したい」の合計が約6割となった。また、女性より男性の方が接種意向が高く、年代別では年代が高くなるほど接種意向も高くなる傾向となった。

 ◇一方「おそらく接種しない」「絶対に接種しない」と回答した方の合計は約25%だった。

◆───────────────────
質問5=「おそらく接種しない」「絶対に接種しない」「わからない」と答えた方へ、それははなぜか?(複数回答)
───────────────────◆

 ▽33.5%=「以前のワクチン接種後の副反応がつらかったから」
 ▽24.5%=「新型コロナのワクチンの効果に疑問があるから」
 ▽21.9%=「新型コロナのワクチンの副反応が心配だから」
 ▽13.0%=「新型コロナのワクチンの重篤な健康被害が心配だから」

本紙第166号添付画像 ◇回答結果は「以前のワクチン接種後の副反応がつらかったから」が約3割と最も高く「新型コロナのワクチンの効果に疑問があるから」「新型コロナのワクチンの副反応が心配だから」がそれぞれ約25%と約22%で続く結果となった=グラフ・東京iCDCのnoteより

◆───────────────────
質問6=今後、どのくらいの頻度でワクチンを接種したいと思うか?
───────────────────◆

 ▼14.6%=「半年に1回程度」
 ▼23.1%=「年に1回程度」
 ▼22.2%=「科学的な根拠に基づいた接種頻度であれば、間隔が短くても長くても構わない」
 ▽19.2%=「もう接種する気はない」

 ◆「年に1回程度」「科学的根拠に基づいた接種頻度であれば、間隔が短くても長くても構わない」との回答が、それぞれ約2割「半年に1回程度」との回答が約15%となった。

 ◇一方「もう接種する気はない」との回答は、約2割だった。

◇─[おわりに]───────────

 冒頭の[はじめに]で「政府が公表した最新のデータで、65歳以上の高齢者の『秋開始接種』の接種率は『40.8%』、高齢者も含めた国民全体の接種率は『16.5%』とご紹介しました。

 一方で、東京iCDCの調査は高齢者だけではなく、全世代のバランスを考慮して回答を求めています。この点を考慮しても、東京iCDCの「質問6」では、都民の約6割はワクチン接種に肯定的な回答をしています。

 東京iCDCの調査はあくまで都民が対象ですが、もし同じ調査を現時点で再度実施すると、現在の都内のマスクの着用率等から推察すれば、やはりコロナワクチンに肯定的な意見は減少し、逆に否定的な考え方は増加しているのではないかと思われます。

 新型コロナが「5類」に移行し、マスクの着用をはじめとした感染防止対策は「個人の判断」が尊重され、ワクチン接種も同様になります。このような中で厚労省は、高齢者施設の入所者や介護従事者に対しては「接種率100%」を求めています。

 これらの状況を考え合わせた時に、新型コロナが「5類」に移行する直前に、東京iCDCの賀来満夫(かく・みつお)所長が、都民に対して発信したメッセージを思い出しました。その要旨は次の通りです。

 ▼「まず、感染症についての考え方やリスクをぜひ、ご理解頂きたい。感染症はガンや高血圧症とは異なり、個人の病気を超え、他の方へうつっていく。そのため新型コロナは『社会全体の病気』となる」

 ▼「『自分を守る』とは『周囲を守る』こと、また『社会を守る』になることをぜひ、ご理解頂き『自己管理』をしっかりと行って頂くことが大切だ。発熱や倦怠感などの症状があったら『次に、どのような行動を取ったらよいのか』ご確認頂きたい」

 この賀来所長のメッセージの重要性をここで再確認し、政府や厚労省はワクチン接種を含めた感染防止対策の重要性をあらためて国民へ周知するとともに、介護業界もこの趣旨を踏まえたメッセージを広く発信していくべき時ではないかと、弊紙では考えます。

──────────────────◇

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*****令和5年10月30日(月)第165号*****

◆◇◆◆◆─────────────
「犬を飼っている人は飼っていない人と比べ、認知症発症リスクが40%も低い」(下)
─────────────◆◇◇◆◆

 【前日(10月29日)配信の、本紙前号(上)から続く】

◆───────────────────
研究内容の詳細3=身体活動低下と社会参加の低さは、認知症の発生率の高さと関連」
───────────────────◆

 今回の研究では「犬の飼育が、フレイル(※)・障がい・死亡に予防効果がある」ことが実証された。また「犬の飼育が、認知症の障がいに対する保護効果がある」ことを示した、わが国における最初の研究となった。

 【※本紙注釈=フレイル=病気ではないが、年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のこと

都長寿医療センター「ハイライト」 また運動習慣があり、社会的孤立がない「犬の飼い主」は、認知症の障がいリスクが有意に低いことも明らかになった=画像「都長寿医療センター」HPより。次に「犬の飼い主」と認知症の障がいとの関連の背後にある、メカニズムについて説明する。

 今回の研究では「運動習慣や、日常的な犬の世話による社会参加などの身体活動が、高齢者の認知症を予防できること」を示した。犬の散歩は、中程度の強度の身体活動に分類される。

 犬を散歩させる犬の飼い主は、少なくとも1週間当たり150分の、中程度の強度の身体活動を達成する可能性が(運動をしない人より)2.5倍高かった。また犬の散歩は、高齢者の社会的交流の機会を増やし、心理的健康を改善する手段としても関与している。

 これにより「犬の散歩が、社会参加に寄与する可能性」が示唆される。身体活動の低下と社会参加の低さは、認知機能の低下や認知症の発生率の高さと関連している。また犬の飼育経験に関係なく、運動習慣と社会的孤立がない方は認知症のOR(※)が低い。

 【※本紙注釈=OR=オッズ比=ある事象の起こりやすさを、2つの群で比較して示す統計学的な尺度測定値

 これは、今までの先行して実施された研究と一致している。これらの要因(運動習慣を含む身体活動・社会参加)が、犬の飼育と認知症の発症との有益な関係の根底にあることを(「都長寿医療センター」として)提案する。

 一方で運動習慣がない、社会的孤立など、犬の世話に関する生活習慣がない「犬の飼い主」は、認知症予防に関するプラスの効果を実感しなかった。同様に、猫の飼育は認知症の予防に有効ではなかった。

 これらの結果も、先行して実施されたフレイル・障がい・死亡に関する研究と、大きく重複している。認知症や介護の必要性を予防するために、運動や社会的交流プログラムなど、いくつかの種類の戦略が世界中で実施されている。

 本研究は、犬の世話に関連する日常的な身体的および社会的活動が、認知症予防に有効である可能性を示唆している。以前の研究では、新型コロナのパンデミック(感染爆発)時に、犬の飼い主は他のペットの飼い主よりも幸福度が高いことが報告されている。

 したがって犬の世話は、新型コロナのパンデミック中に経験したような、相互作用の制限に直面して、運動習慣や社会参加を持つことを含む身体活動の維持に貢献する可能性がある。

 さらに高齢者が、犬やその他のペットを飼い、世話をし続けるためには、社会的支援のシステムが必要になる場合がある。ただし、この研究にはいくつかの制限もある。まず第1に、日本における犬猫の飼い主の割合は欧米諸国に比べて少ない。

 したがって「日本で見られる関係が、欧米や他の国にも存在するかどうか?」を評価することが重要になる。第2に、本研究は入手可能なエビデンス(根拠)(に基づき、犬の飼育と認知症との関係で「運動習慣と社会的孤立に関連する経路」に焦点を当てた。

 今後の研究では、犬の飼育と認知症発症の減少を結びつける可能性のある「心理的経路」を検討すべきである。第3に、追跡期間中に認知症を障がい化した参加者の数は、犬の飼育と認知症の障がいとの関連とともに、過小評価されている可能性がある。

 これは、認知症の障がいの評価を行った「LTCI」システムの、2020年7月までのデータを用いたからだ。日本における新型コロナ感染の第1波により、2020年3月から5月にかけて「LTCI」の新規申請件数は激減した。

 したがって、追跡期間中に認知症を障がい化した参加者の数は、犬の飼育と認知症の障がいとの関連とともに過小評価されている可能性がある。最後に、この調査では「認知機能」は検討しなかった。

 4年という、比較的短い追跡期間で認知症の事象を評価したからだ。これら(「第3」で挙げた)2つの制限は、逆の因果関係につながる可能性がある。これらの限界に対処し、犬の飼い主と認知症の障がいとの関連を確認するには、さらなる研究が必要だ。

 結論として、今回の研究では約4年間、「犬の飼い主」の背景要因を調整した後、認知症に抑制効果があることが明らかになった。具体的には運動習慣があり、社会的孤立がない「犬の飼い主」は、認知症のリスクが有意に低かった。

 犬の世話は、運動習慣を含む身体活動の維持や、新型コロナのパンデミック時に経験したような、相互作用の制限に直面しても社会参加に貢献する可能性がある。

◇─[おわりに]───────────

 個人的な話題で恐縮ですが、弊紙発行人は現在、猫を1匹飼育しています。その経験を踏まえれば、犬の飼育と比較すると確かに「散歩」はありませんし「社会的活動への参加」も、直接的には関係がありません。

 ただ、弊紙発行人のように「猫好き」の立場からすれば、今回の研究で「猫の飼育は、認知症の予防に有効ではなかった」と結論づけたことに対し、正直なところ「反発」も感じます。

 認知症の予防では「日常的な運動習慣」と「社会的活動への参加」が重要な要素である点は、記事内でも「都長寿医療センター」が指摘している通り、これまでの研究でも数多く発表されており、その内容は弊紙でも何度か取り上げています。

 「そもそも犬の散歩が、この2つの要素を実践する誘因要素になっているからだけではないか?」と主張したくなりますが、これはこれでキチンとした研究結果なので「正論」として受け止めたいと思います。

 しかし、今回の論文の最後にも述べられている通り「今後の研究では、犬の飼育と認知症発症の減少を結びつける可能性のある『心理的経路』を検討すべきである」との提言には注目したいと思います。

 「猫の飼育」と「認知症の減少を結びつける可能性がある『心理的経路』」は、関係性があるのか否か……?。「犬の飼育」と合わせて「都長寿医療センター」にはぜひ、今後も研究を継続してもらいたいと願います。

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*****令和5年10月29日(日)第164号*****

◆◇◆◆◆─────────────
「犬を飼っている人は飼っていない人と比べ、認知症発症リスクが40%も低い」(上)
─────────────◆◇◇◆◆

◇─[はじめに]───────────

都健康長寿医療センター 先日、認知症に関するデータをネットで調べていたら「「ペット飼育と認知症発症リスク~犬の飼育を通じた運動習慣や、社会との繋がりにより認知症の発症リスクが低下することが初めて明らかに」とのタイトルを見つけました=画像・東京都健康長寿医療センターHPより

 これはおそらく、ドッグフードや犬の飼育に関係する事業者が、自ら調査して結果を公表したものだろう……と思いましたが、その情報の発信元が「東京都健康長寿医療センター」(以下「都長寿医療センター」)であることを知り、驚きました。

 弊紙もコロナ流行以前は、記者会見で何度かこの研究機関の関係者の発表や意見を聞いたことがあります。センターの歴史をあらためて調べてみたら、その前身は明治5年に創立され、その後の歴史の変遷を経て、昭和21年4月1日に現在の組織となりました。

 今ではその名の通り、東京都の正式な関連団体であり研究機関で、今回の発表内容も研究論文として海外の科学誌に10月11日に発表され、この前の火曜(10月24日)に記者発表しています。

 その結論として「犬の飼育者は非飼育者に比べて、認知症が発症するリスクが40%低いことが示された」と指摘し、また「ペット飼育と認知症発症との関連性を明らかにした発表は、本邦(=わが国・日本)が初めてとなる」と述べています。

 今回本紙では、この「都長寿医療センター」の発表内容を「上」「下」の2回に分けて、読者の皆さんへお伝えしたいと思います。この研究発表に関する本紙の感想は、この記事の最後の「おわりに」(次号に掲載)で述べたいと思います。

 「下」は明日(10月30日)配信予定です。記事中には専門用語等がいくつか出てきますが、まずは今回の記事を、気楽にご一読頂ければ幸いです。

 日本介護新聞発行人

──────────────────◇

 今回は「はじめに」で記したように「都長寿医療センター」が、この前の火曜(10月24日)に記者発表した内容と、その際に公表した、10月11日に海外の科学誌に掲載された論文の和訳に基づいて構成しています。

 記者発表の内容はマスコミ向けであり、また論文の和訳も専門的であるため、内容の一部は本紙読者の皆さんにも理解しやすいように、弊紙で表現等を一部変え、さらに専門用語の一部に注釈を加えました。この点をご了解の上、読み進めて頂ければ幸いです。

◆───────────────────
研究目的=「犬や猫のペットの飼育が、認知症の発症と関連するのかどうか」を調査
───────────────────◆

 「都長寿医療センター」研究所の社会参加とヘルシーエイジング研究チームは、これまでの研究から「犬を飼育する高齢者は、フレイルや自立喪失(=要介護の認定を受ける等)が発生するリスクが大幅に低いこと」を報告している。

 またこれまでの研究から「犬の飼育者のうち、運動習慣を持つ高齢者において、負の健康事象が発生するリスクが低いこと」も確認されている。今回発表した研究では、フレイル(※)や自立喪失、運動習慣と強く関連する認知症に着目した。

 【※本紙注釈=フレイル=病気ではないが、年齢とともに筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のこと

 その上で「ペットの飼育が、認知症の発症と関連するのかどうか」を調べた。

◆───────────────────
研究の結論=「犬の飼育者は、非飼育者に比べて認知症が発症するリスクが40%低い」
───────────────────◆

 今回の研究から、犬の飼育者では、非飼育者に比べて認知症が発症するリスクが40%低いことが示された。また犬の飼育者のうち「運動習慣を有する人」「社会的孤立状態にない人」では、認知症発症リスクが低下することも明らかとなった。

 一方で、猫の飼育者と非飼育者との間には、意味のある認知症発症リスクの差はみられなかった。「日常的に犬を世話することにより、飼育者への身体活動や社会参加の維持が、飼育者自身の認知症発症リスクを低下させている」ことが考えられる。

◆───────────────────
研究の概要=都内A区の約1万人に対し約4年間、犬と猫の飼育の追跡調査等を実施
───────────────────◆

 本研究では、2016年に東京都A区での疫学調査に応答した1万1,194名の調査データを使用した。研究対象者の平均年齢は74.2歳で、女性の割合は全体の51.5%だった。本研究の対象集団における犬の飼育率は8.6%、猫の飼育率は6.3%だった。

 なお参考までに、2020年までの「介護保険情報」に基づく、要介護の認知症の新規発症率は「5.0%」だった。これをもとに、犬の飼育者と猫の飼育者のそれぞれの社会医学的特徴から、認知症の発症リスク等を算出した。

 この調査結果により、ペット飼育者の認知症発症リスクを調べた結果、犬の非飼育者に対する飼育群の認知症発症のOR(=オッズ比=ある事象の起こりやすさを、2つの群で比較して示す統計学的な尺度測定値)は「0.60」だった。

 一方、猫非飼育者に対する飼育群の認知症発症のORは「0.98」だった。これらの結果をもとに、犬の飼育と運動習慣、または社会的孤立との組み合わせ別に認知症発症リスクを調べた。

 その結果「犬を飼育」していて、さらに「運動習慣がある」人たちと比べ、「犬を飼育」し「社会的孤立が無い」人たちの方が、さらに認知症リスクが低かった。

◆───────────────────
研究内容の詳細1=「対象を、認知症の障がいでは『レベル2』以上の分類とし……」
───────────────────◆

 まず、今回の研究対象となった「犬や猫の飼い主」は、まず「ペットと暮らしているかどうか?」を「現在・過去・一度もない」に分けて聞いた。「現在」か「過去」にペットを飼った経験のある人には、ペットの種類「犬・猫・その他」を聞いた。

 日本の介護保険制度では、65歳以上の「第1号被保険者」全員が介護の対象となり、40歳から64歳までの15の特定疾病のいずれかの「第2号被保険者」も、介護サービスを受けることができる。

 介護認定委員会では申請者の心身の状態を調査し、医師の意見を踏まえて審査審査を行う。日本の厚生労働省は、認知症の高齢者のほとんどを対象とする制度の一環として、認知症の高齢者に対して医師が観察者ベースの評価を提供することを義務付けている。

 医師の評価は、患者の慢性疾患や日常生活機能を評価するための標準的な形式であり、全国で利用されている。その区分は、次の通りとなっている。

 ▽認知症なし

 ▼レベル1=多少の認知症はあるが、日常生活ではほぼ独立している。

 ▼レベル2=コミュニケーションが多少困難であるが、最小限の観察で日常生活は自立している。

 ▼レベル3=コミュニケーションが困難で、部分的なケアが必要な認知症。

 ▼レベル4=コミュニケーションが困難で、完全なケアが必要な重度の認知症。

 今回の研究では、認知症の障がいを「レベル2」以上の分類を対象とし、施設・在宅・デイケア等の「保険給付を受ける権利を有するレベル」とした。また研究の参加者が、認知症の障がい分類を受けた日付も抽出した。

◆───────────────────
研究内容の詳細2=「1万1,194人を4年間追跡調査した結果5.0%が認知症を発症」
───────────────────◆

 研究の対象となった1万1,194人の参加者の平均年齢は74.2歳で、全体の51.5%が女性だった。平均世帯規模は2.3人で既婚者は67.1%、高卒以下の学歴は63.2%、年収が400万円未満が66.0%だった。

 このうち現在、959人(全体の8.6%)が犬を、704人(全体の6.3%)が猫を飼っており、また過去に1万0,235人(全体の91.4%)が犬を、1万0,490人(全体の93.7%)が猫の飼い主だった。現在の飼い主のうち124人が犬と猫の両方を飼っていた。

 今回は約4年間の追跡調査を実施したが、この期間中に5.0%の人が認知症の障がいを発症した。「現在犬を飼っている人」は3.6%、「過去に犬を飼った人」「一度も飼ったことがない人」は5.1%が認知症を患った。

 また「現在猫を飼っている人」は4.5%、「過去に飼った人」「一度も飼ったことがない人」は5.0%だった。さらに「犬の飼い主」の運動習慣と、認知症の障がいとの関連を調べた。

 その結果、定期的な運動習慣を持つ「現在の犬の飼い主」のOR(=オッズ比=ある事象の起こりやすさを、2つの群で比較して示す統計学的な尺度測定値)は「0.37」で、運動習慣のない「現在の犬の飼い主」のORは「0.89」だった。

 さらに、運動習慣のある「過去および一度もない犬の飼い主」のOR「0.69」を、運動習慣のない「過去の犬の飼い主」と比較した。加えて「犬の飼い主」と、社会的孤立と認知症の障がいとの関連を分析した。

 すると、社会的孤立のない「現在の犬の飼い主」のORは「0.41」、社会的孤立のある「現在の犬の飼い主」のORは「0.43」、社会的孤立のない「過去の犬の飼い主」と「一度も飼ったことのない犬の飼い主」のORは「0.56」だった。

 ※【以下、本紙次号「犬を飼っている人は飼っていない人と比べ、認知症発症リスクが40%も低い」(下)に続く】

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